注意を要する分析項目1.強熱減量

「強熱減量」は堆積物中の有機物量を反映するとされます。堆積物を高温で焼いた時の減量なので、電気炉さえあれば分析でき、元素分析計やCNアナライザーなどが開発される以前から測定されていました。
水環境分野で、簡単で昔から測られてきた指標として透明度があります。「直径30cmの白色円板を水中に沈め、肉眼により水面から識別できる限界の深さ。」と定義されます。個人誤差が発生するなど数値の解釈に注意を要するものの、懸濁物の増減を10年以上のスパンで比較するなどの長期傾向の解析には、十分使えるデータです。

ところが強熱減量は、原理は簡単なのですが、過去からの比較には全く役立たないことが多いです。
例えば宍道湖堆積物については1982年から2012年までに、ある程度面的な情報をカバーする強熱減量の調査が4回行われています。それらを比較したところ、1982年と1997年では、1997年の方が似た地点でも有機物濃度が少ない結果になりました。1982年は700℃4時間の処理だけですが、1997年はまず110℃2時間で乾燥してから秤量し、その後600℃2時間焼いたものの減量を測っています。このため110℃2時間の乾燥での減量分が、1982年には強熱減量として上乗せされていたと考えられます。
2000年については800℃12時間で加熱したとあり、事前に100℃で乾燥させたかどうかは書かれていませんでした。2012年は600℃1時間の加熱による減量です。ヨシ植栽後の2012年の方が有機物濃度は高いはずなのですが、2000年と2012年でほとんど変わっていなかったのは、2000年の方が加熱温度が高かったために減量が大かった為と考えられます。
今年度の研究テーマとして、このように異なる方法で出した強熱減量がどれくらい違った値になるか、検討しています。

環境省(2012)では、105〜110℃で乾燥した試料を。600±25℃で約1 時間強熱した後の減量を強熱減量としています。今後、全国的にこの方法に統一されるとよいのではと思います。また、過去の強熱減量データを参照するときには、何度で何時間焼いたのか、方法を必ず確認しましょう。

次回以降は、泥分率、全窒素を解説する予定です。