汽水湖における新しい環境創造技術

今日の関東地方はようやく涼しくなりました。宍道湖でもこれから水草が繁茂する可能性はないでしょう。
除草剤使用の減少によりオオササエビモなどの水草の繁茂が見られるようになった宍道湖シジミを掻いているところは水草は生えないとは言え、これではシジミを掻かない禁漁区を設定することができません。宍道湖ではシジミの漁獲が多いほどCOD濃度が下がる(=水質浄化)ことも考えると、流入する栄養塩が水草ではなくプランクトンになり、そのプランクトンをシジミが食べて漁獲量を増やすような塩分にすることが、かつての里湖的な人と湖のつきあい方だと思います。
水草が生えず、かつシジミも元気な状態を保つ塩分はどれくらいかについて、既に論文にして投稿を済ませました。残る課題のひとつは、気候変化の影響が宍道湖にどのように現れているか、それに対してどう対処するかです。これについては、漁獲と水質の2つの観点から仮説の検討を済ませました。漁獲については、あまりに意外な結果だったので実験データも必要ということになり、投稿は早くて1年後です。水質については過去20年の川と湖の水質変化に過去10年の雨のデータを加えて、将来予測した論文を書きました。関係者からのコメントをもらったら、英語にして投稿します。
もうひとつの課題は、一部の研究者が煽動して植えられてしまったヨシが水質に与える悪影響の評価。柱状堆積物を取れば一目で環境を悪化させたことが分かるのですが、全硫化物や有機物濃度に加えて、安定同位体比でもヨシの悪さぶりを定量化する予定です。幸い、ヨシ植栽前の宍道湖堆積物の炭素・窒素安定同位体比を測って論文にしていますので、それと比較すれば定量的に議論できます。
10月は予算申請のピーク。私は既に3つくらいプロジェクトリーダーをしていることから、今年は科研費1本、その他競争的資金の申請1本にとどめて、その分、昨年の修論の投稿など、執筆に時間を取る予定です。競争的資金の申請内容は、宍道湖のような汽水湖沼で持続的な環境利用を行う為に必要な環境センサーと制御技術の開発になる予定です。
宍道湖では産学官が一体になって、調査研究と技術開発、その地元での利用が進められる環境になってきました。これは世界的にも先進的な例だと思います。12月にはヨーロッパのラグーン関係の学会で招待講演、1月には沿岸域研究(LOICZ)のミーティングでロンドンに行くので、これらの機会を捉えて国際ラグーン研究会を作る提案をして、宍道湖はその重要なブランチに位置づけたいと考えています。国内でも「ラグーン研究会」を立ち上げることになるかもしれませんが、その節にはご協力よろしくお願いいたします。