マイクロカプセルはマイクロプラスチックではない

2017年度から3年行って来た科研費萌芽の研究「合成香料を内包したマイクロカプセルが水界生態系に与える影響の検証」の申請書には、2016年9月に研究意義として下記を書きました。
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水圏に大量に放出され、それが魚類などの水生生物への化学物質汚染をもたらすとして注目されるようになった物質に「マイクロプラスチック」がある。これはプラスチック製品が環境中で分解されて細かくなったもので、形状やサイズは様々である。多方面からの研究成果が蓄積されており、2016年5月に国連環境計画が発表した「海洋プラスチック廃棄物の脅威に関する報告書」では、マイクロプラスチックはPCBやDDTなどの有害物質を含むことが多く、それらが海中の生物や物質と反応することでより毒性が強くなる恐れがあると指摘している。
これに対して柔軟剤中のマイクロカプセルの水環境中での挙動や、それが魚類などの水生生物に与える影響については、申請者が検索した限り現時点で全く研究例がない。日本では近年、柔軟剤の使用量が急増し、それに伴って健康被害を訴える人が増えて、「香害」という新語が使われるまでに至っている。「洗濯」という行為によって日常的に水圏に排出されるにも関わらず、その悪影響の可能性が全く考慮されていないことから、挑戦的研究として、家庭から下水、水圏環境に至るまでの動態と、その水生生物に与える影響について検討する必要がある。
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それから約3年後、日本消費者連盟は、マイクロカプセルはマイクロプラスチックに含まれるとして、使用削減を求めるべきとの要望を出しました。

問題とみなしている内容は私と変わらないのですが、マイクロプラスチックとマイクロカプセルでは、生物に与える影響のメカニズムが全く異なります。またプラスチックではないマイクロカプセルもあります。
この要望がきっかけになったのか、最近、水環境の研究者の中にも、マイクロカプセルをマイクロプラスチックとみなしている人が意外に多いので驚いています。ではマイクロカプセルが海にどれくらい存在するのか調べた研究は、今のところ目につきません。
「香害」問題が解決すべき課題であることは賛同しますが、マイクロカプセルはマイクロプラスチックのように、魚類・海鳥・海洋哺乳動物が餌と間違えて食べて死に至るという問題を引き起こすサイズではありません。
マイクロカプセルはなぜ問題なのかを事実として提示しない限り、マイクロカプセルをマイクロプラスチックとして削減される可能性は低いと思います。また、うまく削減されたとしても、プラスチックでない原料でカプセルを作られたら、要望の目的は達成できません。
関心のある方にそのように説明しているのですが、理解いただけたのは今のところ1名だけです。同じ言葉が同じ現象を指していないのは混乱と不信を招くだけなので、今後はマイクロカプセル研究から手を引く方向に舵を切ろうと考えています。