農薬を擁護する専門家にありがちな論説例

下記リンクで「日本の水道水およびその原水に混入する農薬の全国的傾向(National trends in pesticides in drinking water and water sources in Japan」と題した論文の概要を見ることができます。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969720344594

内容のハイライトとして、

・サンプルの 30% 以上でブロモブチドとベンタゾンが 0.1 μg/L 以上検出された。
Bromobutide and bentazone were detected at >0.1 μg/L in >30% of samples.

・テフリルトリオンとダイムロンは、サンプルの 10% 以上で 0.1μg/L 以上検出された。
Tefuryltrione and dymron were detected at >0.1 μg/L in >10% of samples.

と書かれています。「0.1μg/L」にこだわっているのは、EUでは飲用水からどのような農薬であっても0.1μg/L以上あってはならないとされているからです。この論文の3~4ページでも、
「これらの濃度はいずれもWHOや日本のガイドライン値未満だが、ブロモブチドデブロモ(ブロモブチドの分解生成物)を含む16種の農薬の最高濃度は個々の農薬に対するEUの基準値である0.1μg/Lを超えていた。」
Although the concentrations are all below the WHO and Japanese guideline values, the maximum detected concentrations of 16 pesticides including bromobutidedebromo (a decomposition product of bromobutide) exceeded 0.1 μg/L, which is the EU standard for individual chemicals.
と記載しています。

以上を念頭に下記、水道水から農薬が検出されることについて書かれた某研究者のブログをご覧ください。

「『日本は欧州に比べて基準が緩い』と主張する人はこのような二つの基準値(理想と現実)の仕組みを知らずに0.1μg/Lのほうだけを見ているものと思われます。」と書いています。上記論文の著者には厚生労働省の水道水研究者もいるのですけど、彼女は理想と現実の仕組みを知らずに論文を書いたとでも言いたいのでしょうか?このブログの著者は農水省の研究者で、水道水の専門家ではないのですけど。。

ブログの著者も書いているように、EUでは飲用水に農薬が混入するべきでは無いと考えられていて、それは「基本」であって「理想」ではないのです。
まさかこういう人が農薬の再評価を行う委員なんかになっていませんように!

(追伸)
上記ブログが引用しているフランスの事例からも、この研究者が事実をねじまげて伝えることに全く抵抗を感じない様子が見て取れます。
この研究者が引用しているのは下記リンクです。

基本はEUの規制であることが明言されています。

その上で「EUの規制を超えてしまったときの『例外的(exceptional)』な場合としてVmaxを制定したが、Vmaxはあくまで一時的なベンチマークであって(Vmax values act as a temporary benchmark)、EUの規制を超えないようにする措置が終了するまでの間のみ適用されるものである(while solutions are implemented to remedy the exceeded quality limit.)。」と書かれています。

農薬は安全!と主張する「専門家」が海外の状況を説明するときには、こういった意図的な誤訳が多々ありますので、注意されてください。