物質循環の考え方

瀬戸内海と言えば赤潮の発生のように、代表的な富栄養化海域とされています。しかし「兵庫県における養殖ノリの色落ち被害を防ぐために」との提言では、溶存無機態窒素の濃度が、色落ち被害が発生するとされる3μM以下となる時期が早まっていること、またEucampia zodiacusという植物プランクトンが1990年代後半以降ほぼ毎年ノリ漁場に発生し、溶存無機態窒素を横取りしていることが報告されているそうです(中田喜三郎「閉鎖性内湾の環境修復について思うこと」Ship&Ocean Newsletter 171)。
一方、瀬戸内海では下図で示されているように、溶存無機態窒素は年々減少しているのに、全窒素(溶存無機態窒素、溶存有機態窒素、懸濁態窒素をあわせたもの)は増加しています。

(Ship&Ocean Newsletter 171)
この原因として中田氏は、「埋め立てなどによってウチムラサキのようなろ過食性二枚貝(=懸濁態窒素を食べて溶存無機態窒素を排出)の生息域が消失し、資源量が減少したことによって、珪藻への摂食圧が低下し、ノリ養殖時に栄養塩を競合する大型珪藻が長期にわたって出現可能となったこと」が、全窒素は増加しているのに溶存無機態窒素が減っている一因としています。
海岸を埋め立てると沖合のノリが色落ちする。。。シロウトにはまるで風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話ですが、物質循環の考え方で、合理的に推定できる現象なのです。
ここ陸水研では、このような窒素の研究もメインテーマのひとつです。環境問題解決のための具体的な提案は、今日ご紹介したような物質循環に基づいた解析が不可欠だからです。