海の貧栄養化

窒素負荷について、窒素循環研究者からは「燃焼起源窒素や過剰な肥料投与によって、窒素負荷が増大している」と言われ、行政サイドからは「環境基準がなかなか達成できない」と言われます。
一方で水産からみると窒素は減りすぎていて、その為に漁獲量が減っていると言われていました。一次生産者として窒素やリンを直利用している海苔については、海水中の無機態窒素の減少は深刻だと思っていました。海洋と生物199号の反田・原田(2012)によれば、一次生産者だけでなく、魚類の生産も海水中の無機態窒素濃度の減少との相関関係が認められたそうです。DIN濃度と、2年遅れの小型底引き網漁獲量との相関係数が0.74(p<0.01)という、ビックリの結果が紹介されていました。
1970年代から80年代の公害列島と言われた頃と比べて富栄養化という面では、環境は明らかによくなっています。ただし富栄養化する以前に戻すことが無条件で推進すべきことなのか、人との関わりという面では検討を要することを、この例は示していると思います。琵琶湖南湖では一時消滅した沈水植物が全面を覆うほど再生したのですが、そのために水産業や景観に悪影響がでています。一次生産(=植物の生産)は生態系の根幹なので、それに直接関わる栄養状態や植生に関わる変化には、慎重な検討が必要ということでしょう。ヨシやコアマモ「再生」事業なども同様でしょう。本当にそこにあった植生なのか、それによって二次生産、三次生産にどのような影響があるのか、科学的な検討が不可欠だと思います。
ここからは蛇足。
ましてやアサザ霞ヶ浦の自然回復の象徴だとか、トキが舞う霞ヶ浦をめざそうとか(佐渡島のトキを見ていれば、霞ヶ浦ではあり得ないことが分かると思います)、絵になる生物で似非科学的「再生」を煽るなど、言外だと思います。