2008ASLO Plenary lectures & Award talk (1)

6月10日のPlenary lectures と Award talkは、6月11日記事でご紹介しました。今日からはその続きを何回かに分けてご紹介します。今日は11日に行われたPlenary lectures & Award talkです。


Plenary lectures
Elizabeth A. Canuel
Organic carbon composition in the coastal zone: Insights gained through biomarker studies.
50年前に行われた「農業の近代化」が日本の水環境を大きく改変したというのが私の持論ですが、彼女の今日のお話では、アメリカ・カリフォルニア州では150年前が大きな環境改変の始まりでした。
1848年のGold discoveryにより、人口は1847年の50人から1870年の15万人に急増、それとともにダム開発も進み、Sacrament川には432、San Joaquin川には241ものダムがあるそうです。
彼女の話は、下流部にあるデルタで採取された柱状堆積物から、1800年代以降の人間活動によって、流域の炭素収支がどのように変わったかを解析したものです。詳細は後にASLOのサイトで掲載されるはずですので、是非ご覧下さい。
感心したのは、特に最近50年の年代が放射性同位体でうまく検出できなかったことから、現在では無効になった農薬を複数使ったことです。その検出された濃度とピークの濃度と、使用開始年と最大製造年を対比させていました。
バイオマーカーは、デルタの供給される有機物が維管束植物起源なのか、植物プランクトン起源なのかの解析に使っていました。
結論として、ダムなどにせき止められることもあり、陸域の維管束起源の炭素供給は人間活動の増大とともに減り、替わりに農業起源の栄養塩濃度の増加により、植物プランクトン起源の炭素の蓄積が増えたとしていました。陸起源の炭素がダムでトラップされていることについては、Downing et al (2008) Glob. Biogeochem. Cyclesでも議論されているそうです(6月12日に紹介したDowningがまたでてきました。。。)。


Award talk
Nancy Rabalais
I want to live 100 years
Ruth Patrick Awardという賞の受賞講演です。科学の成果を実社会の問題解決にいかした活動に与えられる賞のようです。「私は100歳まで生きたい」という風変わりな演題は、このRuth Patrickさんが、昨年11月に100歳の誕生日を迎えられたところからのようです。
Nancyの受賞理由は、メキシコ湾の貧酸素(hypoxia)の原因が農業起源の硝酸にあることを明らかにしたことです。大学のオムニバス講義でanoxia(無酸素)やhypoxiaは水環境問題として非常に重要なのだと英語で講義したとき、「hypoxia?何それ?」という感じでしたね。重要性を再確認してください。
アメリカはある意味、農業国ですから、貧酸素化の原因が農業にあると指摘するのは、かなり大変だったようです。「農村地帯に行くと殺されるからやめた方がいい」と、友人が真剣に止めたという話をしていました。


今日のお話はどちらも、私が研究していることとオーバーラップする話題でした。つまり私がやっていることは決して重箱の隅ではないわけです。
専攻陸域は他に水をやっている先生がおられないので、窒素循環とか外来種などの陸水研の発表は偏ったものに思われがちです。ですが私は、自分の学生さんには、身近で、かつ国際誌に投稿できるテーマ(Act locally, think globally)しかさせるつもりはありません。そのために自身が、幅広く国際誌に目を通し、知見を最新に保つよう努力しています。これを読んでいる私の学生さんたちは、それぞれのテーマに自信を持ってください。