2008ASLO Plenary lectures & Award talk (2)

昨日に引き続き、12日に行われたPlenary lectures & Award talkです


Plenary lectures
Warwick Vincent
Extreme ecosystems: Limnological change at Canada’s northern edge.
「真澄、明日はフリージングな話をするから、着込んできた方がいいよ」とジョークを言っていたビンセントさん。私が博士課程の学生だったときに、世界からトップレベルの陸水学者が集まって、夏季の1ヶ月、琵琶湖を総合観測するというプロジェクトがありました(企画したのは、このブログで何度か紹介している熊谷道夫博士です)。ビンセントさんは、その時以来何度か日本に来られて、日本の若手(といっても今では十分中年)研究者に目をかけてくれます。その彼がこんな面白いフィールドで研究していたことも分かって、とても有意義なレクチャーでした。
氷の下に液体の淡水が存在していることは最近のNHK番組でも紹介されていましたが、Stamukhi lakeという極地域独特の湖沼形態は初めて聞きました。氷の一部が溶ける季節に、沖合に氷がダム状に堆積して、その内側が一定期間湖沼の形態をとるものを指すそうです。もともとはロシア語だとか。大きい物ではダムの長さが100kmといいますから、水圏環境として量的にはかなり重要な湖沼形態だと思います。ここでどのような生態系が成立しているかはGaland & Lovejoy (2008) L&O 53. 813-に記載されているそうです。
他にもthaw lakes and ponds, perennially ice-capped lakes, epishelf lakesなど、吉村信吉先生の湖沼学にはない湖沼形態を久しぶりに、それも一気にこんなにたくさん学びました。
これら独特の湖沼を維持している北極圏の氷は、NASAによると2007年時点で4.3x1000000平方キロに減少しているそうです。IPCCは、この面積になるのは2030年と予測していたそうで、温暖化が極地においては予測以上に進んでいるのかもしれません。
大学に来て講義をいくつか担当しているうちに、私は話を盛り込みすぎるから、適当な教科書を作らないと聞いている学生さんがパンクしてしまうことに気づきました。それで水環境に関する教科書を作ろうと知人と相談しているのですが、この内容も是非盛り込みたいと思いました。Webに内容がアップされるのが楽しみです。


Award talk
Alice Alldredge
The role of marine snow and gels in the ecology of the sea
G. Evelyn Hutchinson Awardと言いますから、これがASLOの賞では最も栄誉なのだと思います。
経歴紹介では実に様々な分野を手がけておられました。私も多毛類の同定から始まって、懸濁物食二枚貝を通じた窒素循環、サンゴ礁・熱帯藻場生態系における窒素循環、沿岸域における化学物質の集積、水中ロボットと気球による海草藻場のマッピング、過去3000年間の西シベリアにおける環境変動などの主著の仕事や、先カンブリア代の環境などの共著の仕事があって、ハタからみると無節操な幅広さだそうですが、この方に比べたら可愛いものです。
今日はその中からマリンスノーの話をしてくれましたが、ビデオ画像で、どれほど水流に翻弄されてもなかなか壊れないマリンスノーがある一方で、エビが泳ぐために動かしている足の間を通ると一瞬で壊れたりなど、百聞は一見に如かずでした。もう60歳を過ぎているのでしょうに、少女がそのまま大人になった感じで、研究が楽しくて仕方ない様子でした。話の早さも、私なんか足下にも及びません。それだけ伝えたいことをたくさん持っているのでしょう。

Peter A. Jumars
Service as a member benefit: Choosing scientific societies accordingly
Distinguished Service Awardとありますから、学会貢献賞、ということでしょう。この方の仕事は学部の頃、多毛類の食性と環境の関係を研究していたときに多読していたので、実物(?)を前にちょっとノスタルジックな気分でした。
学会貢献賞なので学術的な話は一切無し。若いときに、全く経験がないのに学会誌編集の仕事を頼まれ、あれよあれよという間に会長も頼まれた。まあしかし、それがきっかけで人生が変わって、今ではDeanになっている。学会の仕事も悪くない。君もどう?という感じの、いかにもアメリカ人らしいプレゼンでした。