ぼけない生き方

今いる病棟は高齢の脳外患者が多い中、「矍鑠」という言葉はこの人の為にあるんじゃないかと思うようなおばあさんが一人います。
1日おきに撮る腹部レントゲン、私は手術の翌々日から「自分で歩けます!」と点滴と採尿バックをつけた架台を転がしながらリハビリに努めていたので、看護婦さんは「じゃあ、もう一人患者さん連れて行くね」と歩けない患者さんを車いすに乗せ、3人で5棟むこうにある撮影室まで通っていました。
あるとき、そのもう一人が「私も歩ける」と言うのです。1週間前に胆石の削除手術をした80歳過ぎのおばあさん。私同様、点滴と採尿バッグを抱えています。念のため空の車いすを看護婦さんが押しながら、彼女は本当に往復歩いちゃいました。しかもスタスタという感じ。この人、生まれつきゴルゴ13みたいな体質なのかしら?とか思ってました。
隣の部屋の方なので様子を観察して、ゴルゴでいられる秘訣はこれかなと思いました。
彼女は知っている人でも知らない人でも、気軽に声をかけます。暗い話はなく、かつ、話相手の情報も踏まえていて、こちらも話していて楽しくなります。たとえば私については「昨日、小さい男の子来てたな。よかったな」(実は娘ですが。。。)「5日退院だって、よかったな」と話しかけてくるのです。退院情報、いつの間に仕入れたのやら。
病室のテーブルはいつ見ても片付いていて、よく水分をとるらしく、同じブランドのお茶のボトルが常時3つおいてあります。そして2,3日おきに違う切り花がいけてある。持ってくるのはお子さん、お孫さん達なんでしょうけど、普通、病室には花はいけないのに、タブーを気にせず花を楽しむ気の持ちようがすてきです。
自身の身なりにも気を遣っていて、「くせっ毛だから、こんなに長く何もしないと髪が立って」とか「手術で皺ふえたなあ。また戻さないと」とか、洗面で出会うとそんな話をします。
そんな彼女の病室には、面会時間にはいつも小学〜中学生くらいのお孫さんが2人くらいいて(メンツは3パターンくらい変わる)、「ばあちゃん、ばあちゃん」と周りで遊びながら会話しています。親につれられて仕方なくという感じでなく、きっと普段から、この明るいおばあさんのそばで遊びながら育ったんだろうなあと思います。
彼女のこういうところは生まれつきという面だけでなく、意識もしているんだろうと思ったのが、こんな一言。「血圧高いの、ほっといたらダメだ。脳が悪くなってからではなおらねえから。もう20年以上血圧下げる薬飲んでる。脳だけは悪くしたくねえからな」