河川生態学術研究会研究発表会

11月10日に開催された、第13回河川生態学術研究会研究発表会を聴講しました。岩木川五ヶ瀬川多摩川千曲川を対象にした興味深い研究成果を伺いました。
たとえば多摩川では樹林化対策として2002年に造成された礫河原の、10年近くに及ぶモニタリング結果が報告されていました。比高の高い工区では、2007年の台風による出水でそれまでに復活した河原植物が減り、樹林化が進みました。一方、冠水頻度が高い工区では、新たに覆った礫の上に河原植生が復活していました。
これに関連して総合討論で、最近の研究予算は3年単位のものが多い。しかし河川では10年に一度程度の攪乱が固有の生態系を維持している面があることも分かってきており、本研究会のような長期的な研究スキームの重要性を示している。また、河川間の比較によって見えてくる特徴もあり、時空間の広がりの中で河川生態を捉えることが重要、との議論がありました。
この研究会は、治水・利水の観点から工事が避けて通れない面がある河川の生態系を、生態学と工学の双方から共同研究するという趣旨で始まったようです。そのような背景だからこその議論もありました。
参加者に渡されたアンケートの問いとして、「立ち位置」として左端に「工学」、右端に「生態学」とあり両者が両肩矢印で結ばれていて、「あなたの専門や興味がどのあたりに位置するか」。続いて「あなたにとってXXとは何と説明しますか」とあって、「生態系」「構造」「機能」などが書かれていました。
「生態系」については、タンスレーが提案した「bioticとabioticから成る」というあたりで落ち着きましたが、「構造」「機能」については生態学と工学でかなり認識が違うのが現状のようでした。
両者の認識が異なる原因として、工学的立場からはabioticの中に「モノ」だけでなく太陽光や風など流動・エネルギーといった、元素で現される「モノ」以外、生物体以外の全てが「非生物」としているのに対して、生態学では系は「モノ」として生物・非生物に分かれていて、それらとは別の範疇としてエネルギーが与えられているイメージなのかなと、聞いていて思いました。
研究会では「河川総合研究グループ」が「河川生態系の構造と機能に関する総合研究」と題した報告書を作成中で、この日の議論も反映されるとのことです。出版が楽しみです。