日本の100〜1000年

今も客員研究員をさせていただいている前職の産業技術総合研究所。今回の震災ではつくばにある研究機関の中でも最も深刻な被害を受けたのではないかと、他の研究所の方から同情されます。ホームページには「電気・水道・インターネットなどの情報通信基盤等のライフラインがすでに復旧した」とありますが、実はまだ実験排水は流せないので、事実上実験はできません。
それでも第七事業所(旧地質調査所)の図書室は、一部の書棚がまだ使えないとはいえ、ほぼ復旧しています。今日は調べ物をしに、朝から産総研に来ています。
20年とか30年前の県立博物館の報告書類など、地学関係については東大に無くても旧地質調査所図書室にはあるという資料が山ほどあります。日本人が自ら関わって行った最初の自然科学による湖沼調査報告「山梨県甲州川口及山中湖の分析」も、原本が書庫にあります。日本の湖沼学史に関する論文で、それまで小藤(1883)「川口湖の水質」が最初の報告とされていたのが実は引用ミスで、実際の刊行は1886年、標題も「地質調査報告」で、1884年に地質調査所が発行した報告書の概要を紹介した文章に過ぎなかったことを書きました(陸水学雑誌, Vol. 67 (2006) pp.37-41)。そんな発見が容易にできたのも、古い文献ならほぼここにあるからです。
今我々がどうすればいいかは、過去100〜1000年の間の自然環境の仕組みとその変化を明らかにして、これからの100年と1000年を見通した上で考えるべきだと思っています。だから私は環境問題を考える上で地学が不可欠と思って、大学では地学に進学しました(文科三類から進学できる理学部は地学科地理しかなかったということもありますが)。もともと地学は好きだったので、100〜1000年より先の話も興味がないわけでなく、石油の起源やら先カンブリアの生元素循環を夢想するのは、それはそれで楽しいのですが、今私がやるべきことのプライオリティは100〜1000年だろうと思っています。
そんな研究を進める上で、地質調査所はやっぱり最適な職場だと、明治からの記録に囲まれて思っていました。