湖岸工事と生態系

下の図は諏訪湖の底生動物漁獲量の推移に、湖岸近辺で行われた工事(名称は仮称)の開始年を加えたものです。情報は諏訪湖漁協からいただきました。ありがとうございました。

これらの底生動物は浅いところにいるので貧酸素の影響はあまりないはずだと思っていましたし、実際、底層溶存酸素との対応は見られませんでした。それに対し、湖岸での工事の影響はかなりあるように見えます。特に渚造成工事開始以降に、放流を行っていない底生動物(タニシ、たんがい(大型の二枚貝))が激減しています。
湖岸工事情報を頂く前から、流入河川か湖岸で人為的な改変が行われているのではないかと予測していました。地質調査所が1991年に行った底質調査で砂が卓越していたところが、今ではヒシの繁茂地になっているからです(2月9日記事)。ヒシが生えたから泥場化したのか、泥場になったからヒシが生えたのか、12日の会議では柱状堆積物を取って調べてはどうかと提案しました。その後で漁協さんから工事情報をいただいたのですが、これを見る限り、渚造成によってタニシやたんがいの生息場所が泥場化し、その結果、2005年頃からヒシが生えるようになったと思われます。
湖岸堤の矢板工事はアセスメント法以前だったので仕方ないにしても、渚造成(諏訪湖1周!)は規模からして、環境アセスメントが必要だったのではないかと思います。そのアセスメントでは泥場化が予測できなかったのかどうか、気になるところです。また、そもそもアセスメントをしていたのかも気になります。霞ヶ浦でも、「アサザ保全は緊急を要する」という全く科学的根拠がない理由から、アセスメントをしないで工事が行われ、禍根を残す結果となりました。
今回は底生動物だけご紹介しましたが、魚に対しても湖岸や川岸の工事は深刻な影響を与えます。事業者はもちろん、漁業に悪影響を与えたくて工事されているのではありません。しかし、よかれと思って行われる造成が、漁獲対象種に悪影響を与えることもあると思います。内水面の漁師さん達は、ちょっとでもおかしいと思ったら、率直に意見を伝えるべきだと思います。
湖は海と比べると閉鎖的な系で、地域固有の微妙なバランスで生態系が回っています。他の湖で効果があったことが、別の湖ではNGであることもあります。たとえば湖岸には抽水植物が生えているのが当たり前という感覚は、小さい湖沼(沼とか)ならそうでも、本来、波が高い大きい湖沼(琵琶湖や霞ヶ浦宍道湖)では、たまたま波当たりの低い限定的なところだけがそうであるに過ぎません。このような湖の個性を理解していないと、「抽水植物がないのは護岸工事のせいだ」などと主張し、「よかれと思って」植栽工事をしてしまいます。専門家と称する方々も、すべての湖沼の個性を理解しているとは限りませんので、おかしいと思えば反論することが大切だと思います(もちろん、私が勘違いすることもあると思いますので、そう思ったらご指摘ください)。