「レイチェル・カーソンに学ぶ環境問題」

沈黙の春」は、人が化学物質によって生態系を不可逆的に破壊していることを一般向けに告発した最初の本で、ダウンズが選んだ「世界を変えた本」27冊の中に、聖書やプラトンダーウィンの著作などとともに選ばれています。1999年にTIME誌が選んだ「20世紀にもっとも影響力のあった100人」にScientists & Thinkersは24人入っているのですが、その中で女性はカーソンだけでした(男性で選ばれているのはアインシュタインヴィトゲンシュタインフロイト、ワトソン・クリックなど)。
一方で、日本の生態学会で、化学物質が生態系に与える影響に関する研究は、驚くほど為されていません。自然再生活動に関わる研究者や市民団体も、化学物質の影響を考慮している団体はほとんどありません。トキやコウノトリなど、食物連鎖の高次に位置する大型動物の保護においては、農薬使用の削減など考慮されていますが、水生植物については敢えて無視しているのかと勘ぐりたくなるくらいです(地元で沈水植物の衰退を見てきた方は、除草剤の影響だと一様に指摘されるのですが)。
そういう点からは、日本における環境問題、特に自然再生のとらえ方はとても偏っていると思っています。本書はその偏りを少しでも正すものだと思います。
私のお勧めは
第2章 『沈黙の春』に学ぶ――環境問題のバイブル(原典)
第3章 『海辺』に学ぶ――生物多様性を知る
です。いずれもまずカーソンの作品が紹介され、その内容が現在の環境学生態学のデータでどのように実証されているかが写真やデータも合わせて解説されています。なぜ環境・生態系を考える上で化学物質やそれを使う人間の在り方を考えることが不可欠なのか、納得できると思います。

レイチェル・カーソンに学ぶ環境問題

レイチェル・カーソンに学ぶ環境問題