陸水研の海外展開と目指すところ

昨日18日は秋入学のK君歓迎コンパでした。
K君はフィリピンからの留学生です。修論ではフィリピンの海草藻場減少の原因を地元の方がつきとめ、現場に応じた保全策を科学的に検討するたためのキット開発を研究する予定です。
フィリピンでは海草藻場が減っているために、海草を餌とするジュゴンも減っています。ジュゴンは世界的に絶滅が危惧されている動物です。なぜ海草が減ったのかを解明するためには、その原因を地元の方が突き止め、だからどうすればよいか考えていただくのが、「こうすれば保全できる」と現場での科学的調査の根拠もなく提示するよりはるかに合理的で現実的です(アサザ基金を皮肉っています)。
この日のコンパは南極の湖沼生態系の研究に向かうH君の壮行会も兼ねるのかと思っていたら、それは別途ということでした。貧栄養のサンゴ礁生態系は、オダムが言っていたように栄養塩をリサイクルしていたのではなく、窒素固定による供給が卓越していることを、世界で初めて私が安定同位体比を使って証明しました。そのサンゴ礁と貧栄養という点では同じ南極の湖沼。本当は私自身で行って調査したかったのですが、学生を抱えているとそうもいかず。2年続けて陸水研を志願する学生がゼロになって指導学生がいなくなれば私も南極に行けると思っていたのですが、あのキムタクが南極番組に出てしまった。来年は南極に行きたい学生が殺到するかもしれないと、かなり困っています。
シベリアの湖沼発達史の研究は、PPPに受理されました。宍道湖ポルトガルの環境改変を伴う事業に関する比較研究は、もう少しで掲載されそうだと、共著者から連絡がありました。来年度は20世紀最大の湖沼生態系破壊とも言われるアラル海の調査プロジェクトも立ち上がりそうです。3月にはロンドンで開かれるPlanet Under Pressureで、東日本大震災から見えるメガシティ東京の在り方を事例として、人類が持続的に生きていくために都市はどうあるべきか、LOICZ科学委員として提案する予定です。その他、アサザ基金が言っていることが嘘であることを証明する論文は、当たり前のことの蒸し返しで受理までこぎつけるのは大変なのですが、何本か投稿して、一部は受理の目処がたちました。
科学を全く理解しておらず、それらしく装っているに過ぎないアサザ基金なぞ、研究者としては見て見ぬふりをするのが無難です。実際、科学的に整理しようとすればするほど、それを逆手にとるようなことをされて(=こちらは科学者なので、科学的事実に基づいて慎重に表現する一方、あちらはあること無いこと、何でも書ける)、私独自の視点が発揮されるはずの上記の研究が滞りがちになります。でも環境のために研究している以上、アサザ基金がやっていることを見過ごしてはならないと思うのです。
陸水研は、研究業績には決してならない問題であっても、それが社会にとって重要であれば科学者の立場から誠実に対処し、かつ、最先端の研究に基づいて世界に情報発信する場であり続けましょう。吉村信吉先生、西條八束先生が守ってきた陸水学は、そのような学問だからです(詳しくは陸水学雑誌に3回に分けて執筆した「日本湖沼学文献目録I」再掲載に寄せて」を読んで下さい)。