御用学者

このブログの「アサザ基金の欺瞞」をクリックすると、一番下に鷲谷いずみ氏を批判した記事があります。私は当初、弟子の某氏は鷲谷氏の言いなりになっているのだと好意的に解釈していました。それである時某氏に、「なぜ霞ヶ浦で環境を改変してまでアサザ保全しなければならないのですか?」と尋ねたところ、「これを読んで勉強してください。」と送られてきたのが下記論文です。
保全生態研究「日本における絶滅危惧水生植物アサザの個体群の現状と遺伝的多様性」
え?こんなデタラメな根拠で、二枚貝がたくさんいた霞ヶ浦の砂浜湖岸に大規模な消波堤を造ってヘドロ化させた?しかもこんなトンデモ論文を生態学会が受理した?
それもあって私は生態学会には、何度誘われても入りませんでした。こんな論文を受理して、かつ誰も批判しないなんて、とても科学者の集まりとは思えなかったからです。
アサザは雄しべが雌しべより長いタイプと雄しべが雌しべより短いタイプが交雑しないと実ができないと言われています。そしてこの論文では、その2タイプが混在していたのは霞ヶ浦の麻生だけだったと主張しています。それを根拠に霞ヶ浦で某NPOとともに、アサザ保全の緊急工事をアセスメントもせずに行わせたのです。
私は東大の講義で、「2タイプあるかどうか調べるには、最低何サンプル採る必要があると思う?」と質問しています。統計的な根拠はともかく、理系の直感でどう考えるか知りたいからです。今までで一番少なかったのは15サンプルでした。
さて、この論文の表1をご覧ください。全国で64地点からサンプルを採っているのですが、うち35地点では花型を調べておらず、「不明」としています。さらに、花型を調べた地点のうち、1サンプルしか採っていない地点が9地点あります。1サンプルで2つ花型があるのか調べることはできませんから、花型を調べたことにはなりません。つまり全国64地点のうち7割近い44地点については、花型を調べていないのです。
さらには霞ヶ浦麻生のアサザは当時の繁茂面積が4000平方メートルでしたが、57サンプルもとって、「全国でも2型あるのはここだけ、かつ遺伝的多様性も最も高い。」としているのです。これに対して繁茂面積が8000平方メートルもあった男潟では6サンプルしか採取せず、かつ花型の確認さえしていません。繁茂面積が3730平方メートルの久米池では2サンプルだけ採取して、遺伝的には1種類、花型も1種類だけと報告しています。この研究が統計学の基本を無視したデタラメ論文であることは火を見るより明らかです。
つまりこの論文のデータから、霞ヶ浦麻生が全国で最も遺伝的に多様性があり、かつここでしか実生ができないと主張することはできないのです。なのに「この論文で勉強しなさい。」と送ってきた某氏はきっと、科学の基礎である論理的思考を習得する機会が無かったのでしょう。
ちなみに上記論文の筆頭著者は、昨日紹介した私達の論文の著者でもあります。自身の過去の論文の短所を認めているのです。また、上記トンデモ論文で3サンプルだけ採取して「花型はひとつしかない」と報告された琵琶湖の用水路(!)で我々は2花型あることを見いだし、かつ、遺伝的多様性は霞ヶ浦の麻生と同等であることも分かっています。他にももう1箇所、2花型あるところを見つけています。サンプル数を増やして研究すれば、まだまだ2花型あるところが増える可能性があります。
結論として、霞ヶ浦の麻生でアサザ保全しなければ日本のアサザが絶滅するとの科学的根拠は全くありません。
さらに注目していただきたいのは、表1のアサザ採集地で多いのが水路、川、沼で、大きな湖は少数であることです。昨日も書いたようにアサザは浮葉植物ですから、波が高い大湖沼では奥まって波が弱い地形のところにしか生えることができません。霞ヶ浦では護岸工事のときに多くの船溜まりが作られ、波あたりが弱い場所が発生してから複数箇所に侵入できるようになったのです。
霞ヶ浦の湖岸で行われたアサザ植栽事業は、魚で例えると、霞ヶ浦の湖岸に消波堤を造り、絶滅危惧種のメダカが過ごせるような波当たりの小さい水路を作って保全しようとするのと同じくらい愚かなことでした。保全すべきは、水路やため池など、もともと波当たりの弱いところです。そういうところがコンクリート三面ばりなどになってしまったことなどが、全国でアサザが減少した原因として大きいのではないでしょうか。だからこそ、本来波が強い霞ヶ浦に人工的に消波堤を造るという不自然な保全ではなく、それぞれの地元のアサザ本来の生息地で保全のためにできることが必ずあるはずなのです。
アサザは、霞ヶ浦周辺でもかつては水路や田んぼで生えていたことが写真や地元の老人からの聞き取り調査で分かっています。また真の科学者であれば、たとえ波あたりなどの物理的要因に気づくセンスがなかったとしても、「保全・再生」と主張する根拠として過去の航空写真で霞ヶ浦の湖岸に浮葉植物が本当にいたのか、確認していたはずです。
ご紹介した論文から分かるように、某氏は論理的な思考力に欠け、得られたデータから都合の良い結論を導きました。その結論は、下記新聞記事にあるように地元住民が猛反対していたのに、50億円とも100億円とも噂された土木事業を国交省がアセスメントもせずに強行する根拠に使われました。そして某氏は今も国交省のアドバイザーです。一般にこういう研究者を「御用学者」と呼ぶのではないかと思います。
2002年10月20日.pdf 直