自然再生事業とアセスメント

霞ヶ浦宍道湖での事例を見る限り、自然再生事業と位置づけられた国土交通省の事業は、アセスメントや多様な主体への説明が行われないまま進められています。
かつて公共事業による環境破壊が続いたことから、アセスメント法(環境影響評価法)が作られました。湖沼では土地改変面積が100haだと必ずアセスメントが必要で、75ha~100haだと手続きを行うか否かを個別に判断することになっています。しかし、どんな面積の湖沼でも一律100haで決めるのは理にかなっているとは思えませんし、対象にかからない小さな改変を複数回行えば、合計して100haになってもアセスメントは不要ということになります。
保全生態学研究10 : 63-75 (2005)にある「自然再生事業指針」には、「自然再生事業を計画するにあたっては,具体的な事業に着手する前に,以下の項目についてよく検討し,基本認識を共有すべきである.」として、「生物相と生態系の現状を科学的に把握し,事業の必要性を検討する」とあります。また「自然再生事業は,以下のような手続きと体制によって進めるべきである.」として「地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き,合意をはかる」とあります。アセスメントのように影響をきちんと評価するだけでなく、多様な主体の間で合意をはかることまで求めているのです。しかし現実の自然再生事業には、この指針の内容は反映されていません。
霞ヶ浦で2001年に34億円を投じて行われた「霞ヶ浦湖岸植生帯の保全対策事業」は「緊急対策」として、影響評価も合意形成もされずに行われました。動物への悪影響や沈水植物復活を妨げる、そもそもアサザ霞ヶ浦の湖内で保全すべき植物なのか、水質が悪化するなど、私がブログでたびたび指摘していることは、その当時既に、地元の多くの研究者が指摘していたことでした。
国土交通省霞ヶ浦開発事業モニタリング委員会(1996〜2001)が5年に渡って検討した結果を2001年3月に報告し、湖岸植生が減少した理由は今後調査分析が必要とした矢先に、同じ国土交通省が調査も分析もしないで、消波工設置やアサザ植栽を行う事業を始めたのです。霞ヶ浦では水位操作によって水位が高めで安定したために波浪の集中が起こった、また植生可能域が減ったとの分析結果が報告されたのは2002年です。「事業先行、分析あとづけの印象は免れない」との指摘もありました。
霞ヶ浦アサザ植栽事業は、環境影響評価も合意形成もされずに強行された側面があるのに、成功例と評価されてしまっているのは非常に問題があると思います。二枚貝がたくさんいた砂浜が、事業によって盛り土され抽水植物帰化植物に覆われるようになったのを「自然が再生している状況」と見るか「貴重な生態系が失われた」と見るか。「これが霞ヶ浦の再生した自然です」とよそから来た方が湖岸の植生を見せられただけでは、なるほど、自然が再生しているとしか思わないでしょう。
霞ヶ浦のような例が繰り返されないために、どんな小規模な事業であっても、自然再生事業はすべてアセスメントを行うことと、法律で定めるべきだと思います。アセスメントによって科学的な調査が行われればその評価に基づいて議論ができますし、合意形成の場を設けるきっかけになると思うのです。