科学のねじ曲げが2万人を殺した

地理学会のシンポジウムで、島崎邦彦先生のご講演を拝聴しました。
(追記)翌日、新聞でも紹介されました。
津波警告放置「怒り」 規制委員長代理 原発安全策訴え(東京新聞
ーーーーーーーーーーーーーー
先生は地震調査研究推進本部の長期評価部会長として、2002年7月に「明治三陸地震級の津波日本海溝のどこでも起こる」との報告を提出しました。この予測に従って防災対策を立てていれば、2万人もの方が死ぬことはなく、原発事故も起こらなかったはずです。
しかし当時の防災大臣から地震調査研究推進本部が設けられている文科大臣へ、予測公表の差し止め申し入れがありました。最終的に、当時の担当者が「数値には誤差を含んでいる」との趣旨の文言をいれたことで公表されました。
東電は上記文言が入ったこともあり、「あくまで試算で、運用(津波の高さを5.7mとする)を変えるほど信用に足る数値ではない」と、対策をとりませんでした。また、このブログでも紹介した貞観地震について東電は、地学関係者とは全く異なるメカニズムに基づき、過去の被害を過小に評価する要旨を、2011年5月に開催される学会に提出していました(3.11が実際に起こったので発表されなかったそうです)。そこまでやるか、と思いました。
以上の内容は、岩波の「科学」2011年10月号や2012年6月号にまとめられているそうです。
専門家が科学的に正しい主張をしているのに、別の学問の「権威」とされる専門家が科学をねじまげる事例は、すぐにはなくならないでしょう。霞ヶ浦の湖岸環境を悪化させたアサザ植栽事業も、地元で地道に研究してきた科学者の正当な主張に対して、水質が専門でない研究者が科学を全く理解できないNPOと結託して、「アサザは水質を浄化する」と事実をねじまげたことから始まりました。いったんねじ曲げられた見解に染まると、東電の見解やその見解を支持する学説を出した方々が本当にそう信じているように、正しいものが見えなくなってしまいます。
どうすればよいのか。理想論かもしれませんが、物理・化学・生物・地学の基本となる考え方を、義務教育で徹底して国民全員が理解することを目指すことだと思います。現実には半分がよいところかもしれません。でも原発事故については官僚や企業のトップに立つ方々が地学の知見を正しく理解していれば、アサザ植栽については当該研究者が陸水学の基礎くらいは理解していれば、状況はだいぶ違っていたと思うのです。