宍道湖でヨシ植栽の弊害が出始めているようです

特別研究員のSさんが、水産関係のシジミ調査に同船して撮影した写真を送ってくれました。シジミと一緒に鋤簾にかかったのは、私が「ヨシゴミ」と称している枯れヨシを主体とするヨシ原で生産された有機物です。

ヨシゴミとシジミとではヨシゴミの方が多いようです。宍道湖には植栽事業までは護岸工事以前からまとまったヨシ帯はなかったので、かつ、この塩分の砂地に生息する1cm以上の貝はシジミしかいないので、漁師さんは生きている貝か死んでいる貝かを選別するだけで済みました。この日はシジミよりも多くのヨシを除去しなければならなかったようです。

栄養塩が流入したとき、珪藻が吸収してくれたらシジミのよい餌になります。たとえシジミが消化できないラン藻であっても、シジミ漁場にこのような大きなゴミとしてたまることはありません。
ヨシに水質浄化能力があるからといって植えることを推奨した方たちは、ヨシは少しの窒素やリンで植物プランクトンよりも多くの有機物を生産するので(C:N比、C:P比はヨシの方が植物プランクトンよりも遙かに高いため)、COD有機物生産)の観点からは水質浄化にはならないという、(欧米の)生態学では教科書にも書かれるような基本的なことを全く理解していなかったのです。

さらに情けないのは、ヨシを植えればシジミが増えると吹聴していたことです。根拠は、何もない砂地よりもヨシの根元に稚貝が多くいるように見えるなど、局所的に見たイメージだったようです。宍道湖においてヨシ植栽地沖と何もないところで、ヨシ植栽地沖の方がシジミが多いとのデータは一切ありません。当然ながら、その逆のデータは存在します。

年に面積当たり何kgのヨシが枯れて、そのほとんどがその場で積もらずに(積もったら水際ではなくなるので、ヨシによる浄化能力は維持されないことになる)宍道湖に流れたら、いったいどれくらいの量になるのか。仮定を与えたら中学生でも計算できるでしょう。そんなこともできない方達が、学校教育で「ヨシによるシジミ増加、自然再生」を教えていたというのですから、呆れ果ててしまいます。アサザ基金によるアサザ植栽以降、科学的には自然破壊以外の何ものでもない植栽が、巧みなイメージ戦略により環境教育として学校教育に取り入れられる風潮が全国的に見られます。

環境を改変する・される前に、可能な限り理論、実験、シミュレーションなどでその影響を目に見える形で予測し提示することは、かけがえの無い自然を保全するための基本です。その基本を遵守することなく、科学リテラシーが欠如したNGOや研究者が煽動したアサザ植栽、ヨシ植栽による弊害がこれ以上広がらないように、アサザやヨシの植栽を検討している関係者は、是非一度事前に霞ヶ浦(11月3日頃は天候もおだやかで、アサザ基金が自然再生したとしている場所がセイタカアワダチソウに覆われているのがみえる)や宍道湖(冬の水位が低下したときには、湖底がヨシゴミに覆われているのが見える)を見に来て下さい。

今私が検討しているのは、宍道湖でのCODの増加の一部がヨシ植栽が原因である可能性です。流れ出したヨシゴミはずっとシジミ漁場にとどまるのではなく、シジミがいない深い所にたまり、分解していくと考えられます。その負荷がとるに足らない比率でしたら、写真のような被害を防ぐ手立てを検討するだけでよいと思います。しかしもしCODの増加の無視できない割合もヨシ植栽が原因でしたら(実際、ヨシ植栽開始以降にCODの増加が顕著になっているように見えます)、2000年以降に植栽したヨシ原はすべて除去して、元の砂浜に戻すべきでしょう。