琵琶湖岸の環境変遷カルテ

滋賀県琵琶湖環境科学研究センターが2011年に発行した「琵琶湖岸の環境変遷カルテ」を読了しました。この冊子の位置づけは、同書の中に「行政や地域住民をはじめ、琵琶湖環境の再生に向けた取り組みに関わる多様な主体が、その幹となる生物多様性保全についての情報や認識を共有することが大切です。この冊子は、いわばその「入り口」の試料として活用されるようとりまとめました。」と記されています。紹介通り、図や写真がふんだんに配置され、とても分かりやすい内容になっています。湖岸環境に関わる全ての人に読んでいただきたいと思います。
以下は霞ヶ浦宍道湖を今後どう考えていくかに関してヒントとなった点を覚え書き的にまとめたものです。

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「3,本冊子のいちづけ」に「そもそも琵琶湖の湖岸域の特徴は何なのか、地形や湖岸の底質等の物理的環境と、それらと密接なかかわりを持つ湖岸植生および沈水植物、底生動物、水鳥等生物の視点からその全体像を概観しました。」とある。

霞ヶ浦ではアサザ植栽事業の関係者がこのような概観を怠り、湖岸植生や水鳥など、一部だけを検討対象とした為に、総体として生態系を劣化させてしまった(地上から見える緑しか見えない人間は、今でもこの事業による生態系劣化に気づいていない)。

P1 図1−1−1で琵琶湖岸における波浪エネルギーの強さが図示されている。

宍道湖霞ヶ浦でもこういう図があると,本来そこがどういう湖岸になるかがわかりやすい。

P3 水位操作について「水位操作が琵琶湖の生態系におよぼす影響は、まだ断片的に明らかになってきている段階であり、湖岸堤の建設や圃場整備、外来魚の増加等、他の影響も考慮した上での体系的な整理は十分ではありません。」とある。

霞ヶ浦では「そもそも霞ヶ浦の湖岸域の特徴は何なのか」さえ整理されていないのに、水位操作が生態系を悪化させたと決めつけて行政を攻撃する活動家がいる。このリテラシーの差はなぜだろう。琵琶湖研究センターのように、霞ヶ浦だけを対象として総合的に研究し、啓発する機関が必要なのだろう(茨城県にも同様の組織はあるが、人員や予算が不十分)。

P5 「現在の湖岸類型の分布」で、ヨシ植栽湖岸は人工湖岸に分類されている。

宍道湖では過去に植栽した湖岸を「植生湖岸」としているが、琵琶湖の例のように人工湖岸とすべきだろう。

P18 湖岸域の底生動物の分布特性として「植生湖岸や人工湖岸には、主に底質選択性の乏しい種や止水性の種が生息しています」とある。

→5頁に書かれているように、ヨシ植栽湖岸は人工湖岸と分類されているので、上記の「人工湖岸」にはヨシ植栽湖岸も含まれていると考えられる。宍道湖ではヨシ帯の方が底生動物が多いという報告があるが、同じ水深で攪乱が起こる砂底とヨシ帯を比べれば、止水性の種が増えるのは当然。それを根拠に「生態系が多様になった」と結論づけているとしたらお門違いだろう。

P25 南湖の植生の現状として「ヨシという単一種が優占する抽水植物帯ではなく、多様な湿性植物群集の成立している植生湖岸が、多様な稀少植物の限られた生息地となっていることがわかる」とある。

宍道湖でのヨシ単一種の植栽や、波浪からヨシを守るための消波施設による乾陸化は、生態系の劣化につながることを示唆している。