島村英紀「私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。」

地震学者で元国立極地研究所所長の島村氏による、文庫本書き下ろしの本です。そのカバーに「逮捕・拘留されると『どうなるか』を科学者の目で解析する。」とあります。つい最近もパソコンがウイルスに感染された被害者が犯人として自白させられたりなど冤罪が無くなる気配はありませんが、それは取り調べとか裁判に問題があるからではないかと思い、この本を読んでみました。同じ動機から佐藤優国家の罠」も平行して読みました。同じように逮捕の状況、取り調べ、拘置所での経験を書いていても、島村氏の本は光景やしきたり・食事内容などの記載が多く、佐藤氏は会話や自分が感じたことの記載が多い。職業(地球科学の研究者と外交官)が違うと日常生活でのアンテナの張り方が違うことが明らかで、面白く思いました。
島村氏の判決は、この本を読む限りでは全く理解に苦しむ内容でした。島村氏はノルウェーのベルゲン大学との共同研究をしていて、相手大学からの研究費を所属していた北海道大学が直接受け入れることができなかった為に、自分の口座に振り込んでもらって研究に使いました。これに対して北大が業務上横領で告訴したのですが(ここでなぜ北大が告訴したのかが謎です)、研究にしか使っていないので横領では立件できず、札幌地検はベルゲン大学を被害者として詐欺罪で島村氏を逮捕・起訴しました。ベルゲン大学の担当者は詐欺にあった覚えは無いと証言したのに、島村氏には懲役3年、執行猶予4年という判決が下されました。被害者がいない事件で有罪になることが、日本ではあり得る、ということのようです。

私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)

私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)