西條先生からの宿題

筆頭著者として出した初めての本「貧酸素水塊」、4月17日に発売になりました。本書は「水域において『貧酸素水塊』問題はますます重要になるから。」と、2000年に西條八束先生(東大・地理の大先輩)からまとめるよう提案されました。先生はまた、「人為的な攪乱がなくても、地理的条件で貧酸素化する水域はある。やみくもに貧酸素を防ごうとすることが、かえって攪乱になる場合もある。」と、吉村信吉先生が学位論文でまとめた、1930年代の湖沼における溶存酸素濃度のデータを全て掲載するよう提案されました。あれから10年以上が過ぎ、環境省ではCODに代わる指標として溶存酸素濃度を検討しています。西條先生のご慧眼に、今さらながら敬服しています。
2008年1月27日付記事に解説したように、西條先生は、自然科学の研究者が環境問題という社会問題に関わる際に、研究の裏打ちがない発言をしてはならないとの立場を貫かれていました。先生はまた長良川問題を通じて、環境を改変する前に科学的に妥当なアセスメントを行うこと、事後モニタリングを行い情報を公開することに力を尽くしてこられました。これに対して霞ヶ浦アサザ植栽や宍道湖のヨシ植栽事業を煽動した保全生態学者達は、科学的な根拠もなくアセスメントも行わずに事業を進めることに荷担し、未だにその誤りを認めていません。ご都合主義、二枚舌と言われても仕方ないでしょう。行政に対して無批判に荷担する研究者を御用学者とするならば、こういった方々は市民派御用学者とでも言うのでしょうか。そのような態度は、やがては専門家に対する不信という形で、この国の将来を危うくします。「貧酸素水塊」の終わりには危惧を込めてこう書きました。
「多様な主体が連携して環境に関わっていく中で、利害を超えて議論できるのが、科学的にはどういう状態にあるのか、それがどうなると考えられるかである。専門家は専門を超えた部分でも合理的な考え方が求められ、非専門家にあっても最低限、自らの主張が科学的にあり得ることなのか程度の知見を持って議論に関わる必要がある。貧酸素水塊問題の解決において最も重要なのは科学リテラシーであり、それはあらゆる環境問題に共通することだろう。」

蛇足
学位論文の指導教員だったK先生に書評をお願いしました。「西條先生からまとめるように言われて、10年かけてようやくできたので。。」「へぇ〜、ちゃんと言われた通りしたんだ。偉いね。」
学生時代、K先生からは「バカだね、あなた。」と毎日のように言われた記憶しかなく、ほめられて嬉しい反面、具合でも悪いのかしら?と思ってしまいました。。。