本家本元からして少しおかしい

宍道湖で沈水植物が急激に繁茂するようになった理由として、「植物プランクトンの優占する「濁った系」から水草の優占する「澄んだ系」へのレジームシフトが起こっている」との主張があります。
2012年8月12日記事で紹介したように、宍道湖では沈水植物の繁茂とアオコの発生が同時に起こっています。地元でこのような現実を見ながらなお、上記レジームシフト説を主張する人がいるのは、本当に不思議です。先日受理された論文で私は、原因は2006年に実施になった食品中の残留農薬に関するポジティブリスト制度によって、流域での除草剤使用が減ったのが原因であると結論しました。

一部の生態学者は理論やモデルを重視するあまり、現実に起こっていることを無視したり、過小評価する傾向があるように思います。上記レジームシフト説としてよく引用されているのが下記の論文です。
Scheffer, M., S. R. Carpenter, J. A. Foley, C. Folke & B. Walker, 2001. Catastrophic shifts in ecosystems. Nature 413: 591–596.
この中で著者らは、湖沼で沈水植物を衰退させる原因として除草剤使用をあげています。除草剤によっては、沈水植物だけではなく植物プランクトンにも影響を与えるはずですが、なぜか著者らは沈水植物にだけ影響があるとしていて「除草剤使用によって沈水植物がなくなり、植物プランクトンが繁茂する濁った状態になる」そうです。また沈水植物が無くなる原因として除草剤をあげたのなら、その使用の減少は沈水植物の復活になるはずですが、なぜか復活の原因には除草剤使用の減少はリストアップされていません。

もっともこの論文はあくまでモデルに基づく仮説ですから、ある意味、何でも書けてしまう面があります。大切なのは誰かが提案したモデルに従って色眼鏡で現実を見るのではなく、現場で起こっていることから合理的に結論を導き出すことです。生態学者が推奨した宍道湖でのヨシ植栽や霞ヶ浦アサザ植栽でも、地元で現場を見ている方々は反対しました。学者の方が物事が分かっていないことは多々あるというよい例です。