国立環境研究所からまた怪しいプレスレリース

国立環境研究所から、またもやリテラシーを疑うプレスレリースが出てました。

日本の水草に気候変動の影響 -120年・248湖沼のデータから見えてきた絶滅リスク-|2020年度|国立環境研究所

「背景と目的」で「水草の衰退の要因として、これまでは水質悪化や除草剤の影響などが指摘されていました。しかし気候変動の影響についてはほとんど検討されていませんでした。」と書いています。実は湖沼の水草の衰退要因として除草剤が大きいと、論文で明確に指摘したひとりが私です。特に平野部の沈水植物は除草剤使用開始と同時に全国ほぼ同時に消えたので、除草剤が最も大きな要因と考えられます(例えば拙著、「里湖モク採り物語」に全国での統計なども掲載しています)。
プレスレリースでは図4の説明で「水草種ごとの変化要因。上の凡例の通り、変化に対する各要因の影響の程度を色分けした。水草全体では、気象要因により変化の14.0%、湖沼の周辺環境の影響により10.5%、湖沼の地形学的特徴により25.4%が、説明された。」と書き、冒頭では「気候変動の進行をくい止めることが、湖の生態系を守る上でも重要であることを示唆しています。」とまとめています。
このプレスレリースの元となった論文はまだ東京大学でもネットからダウンロードできないのですが、要旨を見る限り、除草剤使用量は検討したデータに含めていません。除草剤の影響は大きいと考えられているのに、その要因を外して解析した結果にどんな意味があるのでしょう?この論文は統計から最も影響すると考えられるものを抽出するという手法なので、統計に入っていない要因が真犯人であっても、この方法だと引っかかりません。
国立環境研究所の湖沼生態系関係者は、統計で適当な要因をいれて結果を出すという、現場を見ない研究を安易にプレスレリースする傾向があり、困ったことだと思っています。例えば、過去にはこんなプレスレリースがありました。

過去50年間にわたる全国湖沼の漁業資源量の変化を解明: 魚食性外来魚の侵入により資源量が減少|2014年度|国立環境研究所

これでいけば、国立環境研究所の近くにある霞ヶ浦は魚食外来魚のデパートみたいなところですから、漁業資源量が最低のハズです。しかしワカサギにしてもシラウオにしても豊富に漁獲されていて、淡水性外来魚ゼロの宍道湖では全く採れていません。
3年後、同じ著者が「超富栄養化した霞ヶ浦は、餌がたくさんあるので魚がいっぱいいるよ!」みたいな論文を出していました。

https://doi.org/10.1002/ecy.2414

科学者は自身の説が間違っていると気づいたら全く反対の説を出してもOKですし、この著者はようやく現場を見るようになったのねと嬉しく思ったのですが、今回のプレスレリースの代表者は相変わらずのようです(霞ヶ浦でしかアサザは子孫を残せないとか、減った理由は護岸工事だとか、全国の現場をきちんと見ないでデタラメ論文を出した方です)。こういう方が国立環境研究所で室長やっているのは、日本の湖沼生態系の将来がとても心配です。環境省は、たとえば私がScience誌に掲載した論文で殺虫剤が湖沼生態系に与える悪影響を指摘しましたが、新聞報道では「影響があるとは考えられない」とのコメントをしています。一方で国立環境研究所の方の意見は、科学的に問題があっても重用するように見えますので。