災いを福のきっかけに

今回のコロナのおかげで、一部の日本人は今まで大本営発表を鵜呑みにしてきたことに気づくかもしれないと思っています。
たとえば日本の医療は世界でもトップクラスと思っていたでしょうが、コロナ対策では韓国と比べてどれほどおそまつかがテレビでも報道されています。
私は2012年に頸椎椎間板ヘルニアの手術を韓国で受けました。当時の日本では、「歩けないくらいひどくならなければ手術は危険だからやらない。」が整形外科の常識でした。そのため強い鎮痛剤を処方され、科学者としての閃きが阻害されてしまいました。その上、根本原因には何もしていないので悪化する一方。イギリス人の友人に「なのでロンドンの会議、行けそうにない。」とメールしたら、「X線写真を送れ、友人の医師にみてもらう。」とのこと。そしてイギリス人医師は「これならレーザーですぐ手術するのがベスト。」と回答しました。当時、レーザー治療をやってる病院は日本に2つくらいありましたが、バカ高かったり評判が悪かったので対象を世界に広げたら、韓国の病院が非常に成績がよく、かつ初診をオンラインで行って、入院前にどのような手術をするのか、納得いくまで相談できました。
私の場合はレーザーではなく人工椎間板を入れなければならないくらい症状が進んでいると診断され、入院してその手術をしていただきました。日本のレーザー治療の半分以下の値段で、ホテルのような個室に豪華な食事、日本語堪能のメイドさんに24時間つきっきりで世話してもらい、退院数日前には許可を得て韓国の知人の家に遊びに行ったり、近くにあったロッテの免税店モールにショッピングに行く自由度もあり、実に快適な入院生活でした。帰国後もオンライン診察を数回行ってもらい(無料)、無事完治しました。外科的技術そのものだけでなく、人工椎間板の素材の開発(MRIやX線に支障のない物を使っています)、世界のどこからでもオンライン診察をどの言語でも対応、患者の快適さを最優占にした病院環境など、どこをとっても日本にはない観点で、こういうことは韓国全体のレベルが高くないとできないだろうと思いました。かたや日本は、イギリスでは当たり前にできるレーザー治療さえできないのです。
日本がトップと誤解していることは医療だけでなはなく、お家芸とされている物作りもです。たとえば今や世界のかなりの人口にとって使わざるを得ないスマホですが、海外で日本製はほとんど使われていません。逆に日本のスマホ大手のエンジニアの少なからぬ数が、中国系企業に転職しているようです。携帯電話はガラパゴス化が世界共通になれなかった原因かもしれませんが、スマホについては技術力が格段に劣っていて、エンジニアに見切りをつけられているようです。
医学にしても製造にしても、日本が凋落した共通の原因は、トップに登り詰めるのが世界を相手に闘ってきた業績ではなく、内部の人間関係を制したタイプが多いからだと思っています。村社会ですね。東大にいても同じことが起こっている気がします。
ではどうすればいいのかですが、若手、特に理系研究者は、海外に出ることをお勧めします。かつてソ連が崩壊したとき、多くの研究者が世界に逃れました。そして現在、少なくとも陸水学関係では、海外に出た研究者やその子供達が研究者として活躍しています(ロシア系の名前がすごく多くてビックリします)。かたやロシア国内にとどまった研究者は、海外のファンドを頼ったり、知人に頼んで招聘してもらったりして、何とかやっている状況です。そんな苦労がなければもっと活躍できたのだろうにと思います。
日本の研究環境は、以前にご紹介した「誰が科学を殺すのか」に記載されているように、どうしようもない状況まで来ています。日本人のためだけに研究しているならまだしも、科学技術は人類全体の幸福にひとしく貢献すべきと思っているのでしたら、日本に恩義を感じる必要はなく、ましてや「見捨てる」との批判は当たりません。世界全体がコロナの影響を受けていますが、合理的な国ほどその影響は小さく、経済へのダメージも小さいはずです。コロナをリトマス紙にして、理系の合理的な考え方がフラストレーションの原因になりにくい国に移住するのがよいだろうと思われます。

誰が科学を殺すのか 科学技術立国「崩壊」の衝撃

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