水草に関する日本の生態学者のアリガチな誤解

2019年7月13日付記事で「魚が多いのは人工湖岸で水草も生えない湖」であることを解説しました。実はScheffer M. and van Nes E.H. (2007) も「小さくて水草が多く魚が少ない湖か、大きくて水草が少なく魚が多い湖」の、どちらかの状態で安定すると、似た説を主張しています。
Scheffer M. and van Nes E.H. (2007) Shallow lakes theory revisited: various alternative regimes driven by climate, nutrients, depth and lake size. Hydrobiologia 584: 455–466.
このSchefferという人は2001年に、「浅い湖沼は水草が多くて透明か、水草が少なくて濁るかの、どちらかの状態で安定する」との説をNatureで発表、その翌年には欧米の研究者から「そんな馬鹿な!」と批判が相次ぎ、上記2007年の論文で自説を撤回、代わりに持ち出した説の一つが、水草がない方が魚が多いという主張だったのです。
では大きな湖沼は実際に水草が少なく魚が多いかと言えば、典型的な例としてバイカル湖があります。貧栄養ながら魚が多く漁獲され、バイカル湖沿岸では様々な魚料理を楽しむことができます。魚の餌は動物プランクトンで、動物プランクトンは植物プランクトンを食べることから、水草がほとんどない沖合に大量の魚が住み、豊富な魚がいるから、バイカル湖には淡水唯一のバイカルアザラシが生き延びています。
ところが日本の生態学者の多くが、いまだに「水草が多いと透明度が高くなる」との、提案者のSchefferが10年以上前に撤回した説を根拠に水草保護を主張し、一方で、そのSchefferが水草があると魚が少なくなると主張していることは一切紹介しないのです。無知か恣意か。いずれにしても、科学者としてまともな態度では無いですよね。
生態学者は地方の環境保全に多大な影響を与えるので看過できないと思い、彼らが言いそうな誤った主張を解説した総説が印刷になりました。
山室真澄:湖沼における大型植物の異常繁茂に関する国内外の状況.応用生態工学, 22, 51-60.
J-Stageでの公開はまだ先なので、お読みになりたい方は私まで請求ください。