AGRI FACTというサイトに「黒田・木村-黒田氏による『自閉症や発達障害増加の原因は農薬』は不正確」との記事が掲載されています。
この記事では2016年と2017年に発表された論文からネオニコチノイドについて、上記の結論を導いています。
これに対して黒田ー木村先生が農薬工業会のコメントへの反論で、
1）2018年の論文では、ネオニコ3種（チアクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム）が哺乳類のα7型ニコチン性受容体に作用することが報告された。
2）2020年の論文では、ネオニコチノイドが哺乳類の中枢や抹消神経系のニコチン性アセチルコリン受容体に作用して、阻害・撹乱作用を起こし、神経毒性や神経系の難病などに関わる可能性を指摘している。
3）2021年8月に発行された総説では、ネオニコ系農薬が哺乳類ニコチン性アセチルコリン受容体に作用して、神経毒性や発達神経毒性を示す可能性があると指摘している。多種類ある哺乳類のニコチン性受容体は、多様な機能を担っており、脳の発達に重要であることも明らかになっているとしており、子どもが恒常的にネオニコに曝露している状態は危険だとしている。
と出典とともに紹介しています。
AGRI FACTの当該記事を書いた唐木英明氏（公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授）の略歴は、1964年東京大学農学部獣医学科卒業、同大学助手、助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授だそうです。ご高齢のためか、他人の研究を文献を使って批判するなら最新の文献も含めて偏らずに（例えばWeb of Scienceなどでキーワードで検索される論文を全て読むとか）目を通してからとの、科学者としての基本をお忘れのようです。
ネオニコチノイドのような世界で注目されている問題に関して、最新論文が2017年どまりのはずがありません。こんな記事を掲載しているAGRI FACTというサイトは、相当怪しいと思いました。
（追伸）
AGRI FACTの当該記事は、2017年の論文についてこう書いています。
「2017年にCiminoら（2017）は人への影響を疫学的に調べた論文だけを集めて評価しました。その結果、一般住民を対象とした研究は4件しかなく、ネオニコチノイドへの慢性的な曝露が発達障害や神経学的毒性と関連する可能性が示唆されていますが、研究の数が少なく、研究の方法に問題があり、確証は得られていないと述べています。」
上記の文章は、「Conclusion」の最初の文章だけを意訳したもののようです。「Conclusion」の続きは下記の文章となります。太字にした部分を踏まえると、やはりお年なのかなぁ、まともに文章を読解できなくなってるのかも。。。と思いませんか？
The acute poisoning studies did, however, elucidate clinical findings important for the diagnosis and treatment of acute neonic exposures, including a better understanding of neonic toxicokinetics in humans. The other four studies reported associations between chronic neonic exposure and adverse developmental outcomes or a symptom cluster including neurological effects. The findings of animal studies support the biological plausibility for such associations.
Although the studies in this review represent an important contribution to the literature, particularly given the lack of any general population chronic exposure studies prior to 2014, there remains a paucity of data on neonic exposure and human health. Given the widespread use of neonics in agriculture and household products and its increasing detection in U.S. food and water, more studies on the human health effects of chronic (non-acute) neonic exposure are needed.
Ciminoら（2017）の全文は、下記リンクで無料でダウンロードできます。
