健全な環境があれば生き物は勝手に増える

「つり人」11月号が発売されています。

つり人2023年11月号

連載「『ネオニコチノイド』を使わない水辺に優しい農業の可能性を探る」の第2回は、「埼玉県さいたま市・NPO『水のフォルム』循環型伝統農法のケースより」。冒頭で、なぜ水をテーマにしたNPO法人が無農薬での稲作に力を入れているかが解説されています。農薬や化学肥料を使う以前の田んぼで遊んだ経験がある人なら、自然に思いつくことだと思います。
拙著「里湖モク採り物語」の第1章に書いたように、水域の自然再生に関わる生態学者やNPOなどの多くが、日本の水圏において水田で農薬を使うことが生態系に壊滅的な影響を与えていることを理解していません。ところが最近、ネオニコに反対する農家さんにもそういう方がいることが分かり、驚きました。
その方はある湖で鯉が増えすぎて動植物を食い荒らして生態系を破壊しているので、駆除すべきと主張して譲りません。私が8歳の時に目にしたのは、魚毒性の農薬により死んだ魚の腹で一面真っ白になった田んぼが延々続く光景です。隙間無く真っ白になるほど田んぼに鯉や鮒がいたのですが、タニシもいましたし、虫もいました。あれほどの密度でも豊かな水田生態系が維持されていたのに、広大な湖に生態系を破壊するほど鯉が生息しているなんてあり得ないと思いました。
その湖はネオニコ濃度が比較的高い水域です。やるべきことはまず集水域でネオニコを使わないようにすることで、鯉の「駆除」ではないはずです。解決すべきは、鯉がいるだけで甚大?な影響が出るような生態系にしてしまったことなのです。
なお表題は「釣り人」の記事の見出しでもあり、高校生物部の顧問だった濱谷巌先生(当時、世界でも数人しかいなかったウミウシ類の分類学者)が私に教えてくださった言葉でもあります。
「山室、もし目の前に見たことがない生き物がいたら、すぐに標本にしなさい。もしかしたらそれが最後の個体かもしれないから。生き物は環境が合っていれば自然に増える。そうでなければ絶滅する。君が標本にしなければ、その生き物がいたことさえ知られないことになるから。」