車軸藻シンポジウム in 野尻湖

平成19年7月21日(土)13:00〜17:00、信濃町公民館野尻湖支館にて表記シンポジウムが開催されました。野尻湖は昭和63年に淡水赤潮が発生し、現在は指定湖沼ということで、水質に関する地元の関心も高いようでした。
以下、各講演のうち、面白いと思った部分のメモです。近藤様のご発表に対して、「ナウマン象が水草を食べていた可能性はありませんか?」と質問しましたら、他に餌もあるし、食べていなかったんじゃないかと思う、とのお答えでした。でも海草を専食するジュゴンの祖先はゾウだというし、もしかしたら食べてたんじゃ。。。とまだ思っています。

渡邉 信(筑波大学)「車軸藻類の環境科学における重要性」
野尻湖ではコカナダモを除去するためにソウギョを導入した。
全国でため池調査を行ったところ、201地点のうち96地点だけでシャジクモ類を確認できた。うち41地点はChara brauniiしかいなかった。
このため、2006年改訂レッドデータブックでは絶滅危惧種が増えている。
野尻湖ではセンニンモと一緒に植えることにより、ホシツリモが繁茂している。これは食害を分散している効果かもしれない。
(質問)卵胞子はどれくらい生存しているのか?
(回答)30〜40年くらいか。

坂山英俊(東京大学)「車軸藻とは」
シャジクモとコケの違い→胚(胞子体)の有無
コレオケーテとの違い→生殖器官と多細胞化
Kahn & Sarma 1984がシャジクモ類分類を総括した論文。分類のベースはWood(1965)の論文。
Woodでは枝の特徴を主要な分類形質にしているが、Sakayamaの研究では卵胞子の形態の方が指標として有効であることが分かった。
シャジクモ類の簡単な見分け方は下記。
シャジクモ系:枝が分岐しない、卵胞子の断面が円形
 ホシツリモ→托葉冠が退化
 そのほか→托葉冠がある
フラスコモ系:枝が分岐する、卵胞子の断面がだ円形
 フラスコモ→枝が又状に分岐
 そのほか→枝が単一に分岐

森嶋秀治 (千葉県立船橋古和釜高校)・佐野郷美(千葉県立船橋芝山高校)「手賀沼およびその周辺の車軸藻類ポテンシャル?埋土胞子からの発芽の可能性」
手賀沼で3月に採った水を乾かして4月に水をいれたら、5月にはでてきた。
手賀川高水敷に水がたまった時には、フラスコモがでてきた。
再生池は3年目にヘドロ状態になる。
シードバンクから出てきた手賀沼産シャジクモ類のうち、Kasaki(1964)にないものは下記。
ケナガシャジクモ、エリナガシャジクモ、アメリカシャジクモ、ミルフラスコモ

樋口澄男(長野県環境保全研究所)「野尻湖水草復元研究会の活動の概要」
1978年にソウギョ5000個体放流したところ、3年で水草が全滅した。
ソウギョは自然繁殖できないと言われているので、いつかはいなくなるはず。
ホシツリモは20℃以下では成長しない。25℃でよく成長する。
水深4.5mのケージに植えたホシツリモは付着生物におおわれて枯れた。一方、ビオトープではエビや巻き貝が付着生物を除去してくれていたので、魚は侵入せず、小動物は入れる25mmのメッシュに変えて実験を継続している。
水深4mだとホシツリモが波で倒壊下ので、水深7mに実験区を設置した。その結果、センニンモが生えてくるとホシツリモも生えてくる現象が観察された。
48個のバケツでシードバンクを作って、出てきたのは4株だけ。
木崎湖では1988年にソウギョを放流し水草が皆無になったが、1999年にソウギョが減少、現在では西岸の水深5mより深いところにヒメフラスコモのシャジクモ帯ができている。
コカナダモをケージにいれると爆発的に増えるが、2年後には消滅した。リンを添加するとまた増えたので、リンが律速要因になっていたらしい。
ブルーギルはシャジクモは食べるが硬いセンニンモは食べない

酒井今朝重、酒井昌幸(野尻湖水草復元研究会)「サポートダイバーの活動」  ホシツリモ捕食者は、鯉、タニシ、体長5cm程度のブルーギル
落ち葉の堆積もホシツリモにはよくないが、これは昔からあったはず
戸隠森林植物園緑が池では、ミノリノフラスコモとオヒルムシロは分布が重ならない。オヒルムシロの駆除によってフラスコモの分布が拡大している。
霊仙寺湖:新種のレイセンジシャクモが発見される。

北野 聡(長野県環境保全研究所)「野尻湖の魚類相の変遷」 オオクチバスは1983年、コクチバスは1993年に移入。野尻湖全体で1万尾で8割がコクチバス。貧栄養だとコクチバスが優占する傾向があるように感じている。
コクチバスは流水でもOK、どちらもワカサギをよく食べていたが、最近はエビを食べている。
2001年の5月にバス釣りトーナメント(20cm以上)があり、その時に標識放流して現存量を推定。
ソウギョの導入により、エビやウナギもとれなくなった。1997年時点での体長は90cm以上。
水草や藻類を専門に食べるブルーギルもいる。湖内にはアメリカザリガニはいない

近藤洋一(野尻湖ナウマンゾウ博物館)「水草復元活動を通して実施した環境教育」
ナウマンゾウの足跡化石が見つかったのと同じ層からシャジクモを含む水草類の種子や卵胞子がでてくる。ゾウはこれらの水草を眺めて生活していたはずだ。
種子や卵胞子は85マイクロメートルの篩いでウエットシーブして抽出する。さらさらでうまくふるえる。
子供達が地層から直接見つけだすこともある。