シンポジウム報告「霞ヶ浦における内分泌撹乱化学物質の影響について」

9月12日に行われた陸水学会公開シンポジウム「霞ヶ浦の水質―古くて新しい問題―」から、今日は国立環境研究所の鑪迫典久先生のご発表を紹介します。

ある研究者が、霞ヶ浦に生息するヒメタニシの性比が偏っているとして、環境ホルモンによるメス化の可能性を指摘しました。これに対して鑪迫先生は、しつこくしつこく8年かけて調査され、現時点では下記のように考えているとのことでした。
結果として確かに雌の方が多いが、それは環境ホルモン以外の原因で説明できる。
例えばサンプリング時のバイアスとして、ヒメタニシは湖岸から数メートルの距離でサンプリングされているが、その場所はタニシの繁殖場所である。
雌は一度交尾すると数ヶ月稚貝を放出するため湖岸に留まっているが、雄にはその必要が無い。従って放浪がちの雄はサンプリングされにくい傾向があると言える。
また、成長速度は雌雄で一定だったのに対し雌の方が大きい個体が多かったことから、雌の方が長生きである可能性がある。だとすれば性比は雌の方に偏りやすいと言える。
このように、野生生物の調査においては最初に調査対象生物の生活史特性を把握することが必須だが、しばしば生活史特性の検討抜きで性比が語られがちであり、注意を要する。

お話をうかがっていて、日本ではヒメタニシさえ生活史が解明されていないなど、野生生物に関する基礎的知見が不足していると感じました。生態学関係者には、自然再生の研究も大切とは思いますが、日本の自然環境で生物たちがどのように生活しているのかという基礎的な知見を、まず整えてほしいと思います。それなくして、どうやって自然を再生するというのでしょうか?