シンポジウム報告 〜秘められた砂の力・・・決して美しくない微生物による水質浄化

9月12日に行われた陸水学会公開シンポジウム「霞ヶ浦の水質―古くて新しい問題―」では、中本信忠先生の「生物による浄化の仕組みの再認識」と、沼澤篤先生の「霞ヶ浦の沿岸帯と水質保全」から、一見不毛に見える砂場が、そこに生息する微生物と濾過作用によって、水質浄化においていかに大きな貢献をしているかが理解されました。

中本先生が提唱するのは、基本的には1829年にイギリスのJames Simpsonが完成させた、沈殿池と砂ろ過によって、非常に汚濁した当時のテムズ河の水を源水にして、清澄な水を給水する施設と同じ、「緩速濾過」と呼ばれる仕組みです。先生によると、戦前の日本の水道水は基本的に緩速濾過で処理し、塩素を添加していなかったそうです。しかし戦後アメリカ軍に占領されたときに、浄水場で2ppm、管末で0.4ppm以上の塩素添加が義務づけられたそうです。現在では、既に完成され、塩素添加も不要だった緩速濾過技術を捨て、未完成で、絶え間ない改良が必要な高速濾過が使われ、塩素が添加されています。これについて中本先生は、開発・改良という投資(=無駄遣い)が必要だからもてはやされているのではないかと皮肉られていました。

これより前、「霞ヶ浦の沿岸帯と水質保全」では、今は離岸堤によって水の混合が妨げられ、その中で繁茂している絶滅危惧種アサザの畑が広がっている場所が、かつては一面の砂浜で、その水面下の砂による浄化作用、水上の砂浜に打ち上げられた有機物が分解する作用が霞ヶ浦の水質浄化にどれほど寄与していたかが解説されました。そして現在は、離岸底やアサザによる有機物負荷で、逆に汚濁が増えているのだそうです。

実際、今日の産経新聞茨城版では、県内水域水質はおおむね改善されているものの、霞ヶ浦は悪化していると報道されていました。美しい花が咲く絶滅危惧種の保護が、水質保全とは相容れない面があることを考えさせられるご講演でした。