とんでもない「優秀成果」

(財)河川環境管理財団の「河川整備基金助成事業」に応募しようとホームページを見たら、この事業で行われた研究のうち、「広く周知し、活用を図るべき成果を『優秀成果』として明確に位置付けて公表」するとありました。優秀成果ってどんなのかな?と見てみたら、「過去100年間における中海の富栄養化の過程を明らかにする:底質コア試料と水質データ・工事の歴史資料を用いたクロスチェック」という研究がありました。
中海はよく知っている水域なので、読んでみて唖然としました。
この著者らは40年分と称する堆積物の柱状試料を解析した結果を報告しています。流入河川が無い水域の方が、ある水域より堆積速度が大きいという不思議な結果で、本当に年代があっているのか疑問ですが(著者らの専門は生物みたいです)、その堆積速度から計算すると、1950年代に複数の要因が重なって中海湖心が貧酸素化したと書いています。中海のような汽水湖沼は、富栄養化しなくても、塩分成層で貧酸素化します。成層しなくなるのは、表層と底層の塩分がほぼ同じになるくらい塩分が高い状態の時で、少なくとも過去100年間、中海はそういう状態が普通ではありませんでした。
「1950年代に貧酸素化した」原因として著者らは、中海湖心では1950年代に浮遊性珪藻が突発的に増殖し、それに伴い藻場が衰退し,湖底への有機物負荷が増大したとしています。しかし、故西條八束先生が1961年に2,4,7月と3回、中海の表層クロロフィル濃度を測っておられていて、湖心での最高濃度は7月の測定値である1リットル当たり4.4マイクログラムです。この程度の植物プラントン濃度だと、プランクトンによる遮光効果でアマモ場が衰退することはありません(アマモが衰退するには15マイクロ以上の濃度である必要があります)。
何より驚くのは、「1950年代に複数の要因が重なって貧酸素化した」ことをサポートするとして引用している文献は、科学的におかしいことが既に学術論文で指摘されているのに、それでも引用していることです。研究をまとめる上で、あまりに引用文献が偏っていると感じました。
河川環境管理財団には、きっと中海について詳しい方がいなくて、この驚くべき報告が「優秀成果」となってしまったのでしょう。でも、何も知らない国民がこの報告だけを読んで、ここに書かれていることを正しいと思ってしまっては大変だと思います。特に著者らは「本研究で明らかになった「湖心付近における1950年代の突発的な富栄養化」に関しては,他の研究と一致している部分である。この点を踏まえて,今後,中海再生のための具体的な方法論を模索していきたい。 」と結んでいます。専門家でない方がこんな報告を参考に意見形成したら、とでもないことになりそうです。これが学会誌の報告なら反論を投稿することもできるのですが、こういうのってどうすればいいのでしょう。。。