海洋環境問題委員会35周年記念シンポジウム:海洋環境問題委員会の役割と課題

日本海洋学会海洋環境問題委員会主催の表記シンポジウムを聴いてきました。
私もかつてこの委員会の委員を務めさせていただいたのですが、有明海問題について提言を行う際に、学会内で見解の相違を残したままだったことに疑問を感じ、またその頃は脳脊髄液減少症がかなりひどい状態だったこともあって、委員を辞しました。
下記は、環境問題委員会設立のきっかけとなった、学会としての声明です。その後、環境問題委員会が中心となり、1979年「海洋環境調査法」、1986年「沿岸環境調査マニュアル底質・生物篇」、1990年「沿岸環境調査マニュアル2水質・微生物篇」と刊行してきました。声明にある「具体的な研究方法の確立」の実践であったわけです。
今日のシンポジウムでは、これまで有明海問題などで行ってきたような提言だけでなく、修復のプロセスにおいても学会から人が出て積極的に関わるべきだとの意見がありました。しかし私は、むしろ逆に、下記声明にある原点に戻り、環境問題に関わる海洋研究の方法や体制を討議確立し、自然科学のシンクタンクとして機能するよう学会全体として取り組むことが、海洋学会にしかできない社会貢献だと思います。

海洋環境問題に関する声明
 太古から私たちの生命をはぐくんできた海は、われわれ人類の幸福のため、その資源と空間を十分に活用しながら、子孫のために保存しなければなりません。近年の人間活動、とくに生産活動の急激な増加にともない、環境破壊に留意することなく、大量の廃棄物を注入したり、沿岸を変形させるなど、海洋に大きな人為的作用を加えたため、環境に著しい変化が生じてきました。
 私たちはこの現状が地球の生態系を変え、ひいては人類の生存を危うくすることを憂えるとともに、学会としてこれまで環境問題に対する取り組み方が、消極的であったことを反省するものです。今後一層の熱意をもって海洋の基礎研究を進め、広く関係学問分野と国内的また国際的に協力し、海洋環境の変化を監視して、将来の予測を確実にすること、また研究成果をすみやかに実際面に役立てることが大切と考えます。
 日本海洋学会は、ここに海洋環境問題委員会を発足させ、今後積極的な環境問題の具体的な研究方法および研究体制を討議確立し、その活動を通じて、海洋環境の改善に努力するとともに、いかなる形においてもわれわれの研究が、環境改善とは逆の方向に悪用されることのないように努めます。
 ここに日本海洋学会昭和48年度総会の決議により、私たちの見解と決意を表明し、広く社会の理解と協力を得て、目的の達成を望むものであります。
昭和48年4月8日 日本海洋学会