諫早の有明湾に続いて三河湾も埋め立て、国産アサリはどうなる?

7月5日付朝日新聞(名古屋版)に下記の記事があると、知人が知らせてくれました。

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愛知県が計画する三河湾「六条潟」周辺の200ヘクタールの埋め立てについて、環境省が独自に環境影響を調査し、「生物の生息密度が25%減少する」という結果が出ていたことがわかった。海域にすむ生物の4分の1がいなくなる恐れがあるという指摘だ。六条潟は国内有数のアサリの稚貝の産地。愛知県による調査では「アサリ幼生への影響はほとんどない」と報告されている。(林望、久土地亮)


有明湾のアサリが壊滅的に減っている現在、2004年から愛知県のアサリ漁獲量は全国1位です。そして愛知県のアサリの稚貝は大半がこの干潟産なのだそうです。
そんな貴重な干潟を、どういう目的で埋め立てるのでしょうか。また、愛知県の結果と、環境省の結果が食い違うのはなぜでしょう。
過去にも、県が出した提案に環境省が異議を唱え、最終的に公共工事が中止になった例がありました。国営・中海干拓工事です。干拓して農地にする計画だったのですが、農地に淡水を供給する予定だった宍道湖の淡水化が延期になったことから、工事が中断していました。しかし、工事を中止すると島根県に払いきれない負担金が生じることから、県知事が工事再開を申し入れました。それに対して環境省が、事業の意義、環境への影響の双方から異議を唱えたものです。

愛知県と環境省の結果が異なるという点も気になります。もしモデル計算の結果なのでしたら、モデルというのは根本の考え方で全く異なる結果になります。
下記の文章がご参考になるかもしれません。

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干潟を埋めたてたら環境にどのような影響が生じるか?その評価ツールとしてよく用いられる生態系モデルによるシミュレーションは、通常、水質などのデータが存在する年について、流量など物理データなどを入力して計算し、栄養物質や植物プランクトン、溶存酸素濃度などの計算値と観測値がどれくらい合っているか比べます。まあ合っていると確認したら、次は計画されている環境改変を行ったらどうなるかを、1年分くらい計算します。ここが問題。ある干潟を埋めた影響は、最初はそのごく近くで、翌年にはやや近くでと徐々に広がり、10数年したら沖側に貧酸素水塊がいつも発生するようになるという風に、たった1年で出てくるものではないと思われます。

また、埋め立て中に泥が舞い上がると、沖側に生息する貝などが死滅する可能性が極めて高いのですが、そういった影響の評価は、ほとんどされません。

干潟にはアサリなどの二枚貝が豊富に生息します。その干潟だけでなく、周辺海域の主な漁場に、干潟から泳ぎだした幼生が供給されている可能性があります。それで幼生を粒子としてシミュレーションすると、埋め立てた方がより多くの幼生が残存するという結果になることがあります。これは地形改変によって流れがよどみやすくなる場合に起こります。実際は、そのような状況だと浮泥も沈降しやすいので、数年のうちにそこはヘドロ場になり、幼生が残ったとしても生き残れない場になります。

極端な例として、その干潟を完全に囲う改変でシミュレーションすると、幼生に見立てた粒子は、定着できないような深い場所に無効分散することなく、残存率は干潟の状態の何倍にも増えるでしょう。だからといってそれは、その改変によって二枚貝漁場としてかえってよくなることにはなりません。

このようなことを考えますと、干潟を埋め立てても環境に影響はないと、特に事業者が主張している場合、本当かどうか原点から検討する方が無難でしょう。