低用量問題

環境ホルモン学会の最新のニュースレター(vol.11, no.2)の巻頭言は、国立医薬品食品衛生研究所の菅野先生による「低用量問題」。そして下記の文章から始まります。
「内分泌かく乱物質問題は、受容体原性毒性の問題であると考えることができよう。その特徴は、受容体を発言している細胞・組織が標的ということである。胎児発生での最初の標的は中枢神経系、遅れて生殖器系である」
そして従来型の毒性と受容体原性毒性との大きな違いが図示されていて、従来方型では毒性物質が直接標的部位の機能異常を発現するものとされているのに対し、受容体原性毒性では受容体が標的になり、受容体からの異常シグナルが標的部位の「発現異常」となって現れるています。
「なぜ、今まで低用量影響は無いと信じられてきたのか。それはGolden standardとされる従来型の毒性試験が、第一に、成熟個体を対象としており、その完成された恒常性維持機構により低用量作用がうち消されるため、第二に、胎児を対象としていても曝露直後の主に肉眼形態的な異常を主体に観測していたためであると考える。」
機能を壊すまでの濃度でなくても、受容体が変なシグナルを出すくらいの影響があれば、標的部位にも機能異常を起こさないまでも異常なタイミングでタンパク質が発現したり、量がおかしかったりという異変を起こすことはあり得るという主張です。そしてその標的は、環境ホルモンという名前から想像される生殖系より前に、中枢神経系が狙われるというのです。
この号の最初の記事は、その趣旨に沿った「微量ビスフェノールA曝露の中枢影響に関する評価研究−性的二型と情動」でした。

さてここで、7月29日付記事でご紹介したように、あまりに記載が偏っていたWikipediaで再度「環境ホルモン」を検索してみました。私のように「記載が変!」と思った人が多かったのでしょうね。7月29日当時とかなりトーンが違っていますが、低用量問題については相変わらずに見えます。
「またフォム・サールらがDES(ジエチルスチルベストロール)について「低濃度でだけ」影響が現れる場合があると報告したが[3]、従来の毒性学によれば低濃度で出た影響は「高濃度でも」見られるはずであることから、学術的にも問題視された。」「上述のフォム・サールらの「逆U字効果」についても再現されなかったとの報告が多く、現在ではほぼ否定されている。」と、低用量問題なんて存在しません!と主張しているような書き方に読めませんか。