「医学や工学といった一部を除く」オーバードクターの現状について問題提起している本です。2007年出版。8月26付記事で紹介した城繁幸著「若者はなぜ3年で辞めるのか?」にあった「この国は若者を食い物にすることで既得権を握っている年配者が生き延びる構造になっている」との主張が、アカデミズムではさらに先鋭化されているようです。
ロスジェネ(バブル経済崩壊後の就職氷河期に社会に出た世代)を皮切りに、大学院重点化によって大量生産された博士達が構造的にフリーターとなる仕組みになっていると著者は主張します。なぜ「構造的」なのか。平成18年度の博士課程修了者数は15966名、うち就職者数9147名。就職できなかった者の割合を「失業率」とすれば43%(これに対して平成18年度の完全失業率は10分の1の4.1%)。こうなると本人の努力不足というよりは構造的なものであるとの主張は、特に奇異に感じられません。そしてこのようなアンバランスな構造ができてしまったのは、大学が人を育てるためではなく、大学自体が生き残るために大学院重点化を推進したからだと著者は解釈しています。すなわち、若者を食いつぶす構造です。
博士号をとっても定職が得られない若手のために打ち出された「ポスドク1万人計画」も「定職」の絶対数が不足している限りは一時しのぎにしかなりません。任期は2,3年、長くて5年。そして文部科学省が「35歳までは流動性を持たせた雇用が望ましい」との見解を示したために、ポスドクの採用条件に「35歳以下が望ましい」との年齢制限が入るようになったと言います。従って、学位取得後1回か2回のポスドクの間に任期のない「定職」につけなかった若者は、35歳を過ぎるとおおむねフリーターにならざるを得なくなってしまうのだそうです。
「定職」を得るために、理学系では国際誌を年間何本も掲載しなければならないのですが、選ぶ側の教授達は「ほとんど論文を生産していない。週に3,4日ほど大学にやってきて、講義をして会議に出て帰るだけ」との信じがたい記載もありました。
もっと驚くのは、欧米の大学では学部、修士、博士と異なる大学、学科で学んで見識を広げることこそ奨励されるのに、その大学の学部以外からの学生を「学歴ロンダリング」と蔑称をつけることさえあるというのです(私の研究室ではそういう考えは皆無です。私自身、文科三類から理学部進学と分野ロンダリングしてますし)。
そろそろ来年度の入試に向けて、陸水研でも進学希望者との面談やメールでのやりとりが始まります。今年の進学希望者、特に博士課程進学希望者にはこの本を必ず読んでもらって、それでも博士課程まで進学したいか、学んだことをどうやって社会に生かすかの展望も一緒に考えたいと思います。大学院の現状を前に、それでも挑戦する若者がいる限り、日本の水環境は危機的な状態には至らないで済むでしょう。
高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)
- 作者: 水月昭道
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/10/16
- メディア: 新書
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