「NPO法人アサザ基金」の論調に関する私見

NPO法人アサザ基金が、そのホームページで「アサザ群落の分布について」という記事を掲載しています。以下、ここにある文章を例にします。
http://www.kasumigaura.net/asaza/index.html

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1994年ころに確認されたアサザ群落は、かなり以前(1970年頃から始まった護岸工事以前)に種子から広がった群落の生き残りであり(アサザ多年草です)、「アサザはもともとそんなに無かった」という批判をする人が言うように、当時の34カ所のアサザ群落が好条件のもとに急に増えた(発生した)と考えることは不可能です。

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上記によると、1970年以降、霞ヶ浦アサザ群落は減少の一途をたどっていたはずです。これに対して、2001年に地元の住民や研究者が参加した研究会で発表された内容が報道されています(下記)。1972年に桜井善雄先生が行われた調査では、アサザは2カ所しか生えていなかったことが報告されています。また、アサザを増やすと湖底が酸欠する危険があると指摘しています。

アサザ基金はこの報道に対し、修正記事(下記)を出すよう申し入れました。しかし修正されているのは酸欠などの部分だけです。「1972年当時アサザが生えていたのは2カ所しかなかった」との報告については、クレームをつけていません。それなのになぜ、「1994年ころに確認されたアサザ群落は、かなり以前(1970年頃から始まった護岸工事以前)に種子から広がった群落の生き残り」と言えるのでしょうか。私なら、1972年当時は2カ所しか生息していないという危機的状態にあったアサザが、1994年頃には群落を34カ所に回復させていたと解釈します。

アサザ基金のホームページにはこの例の他にも、矛盾に見える記載が複数あります。例えば「アサザを増やすだけではなく生態系をトータルに考えている」「水質浄化するなど偏ったことを主張した覚えがない」との趣旨を繰り返しています。それではなぜ、2002年に行われたシンポジウム(8月12日付記事の新聞報道参照)で「流域の子供たちはアサザを植えれば霞ヶ浦の水がきれいになると思っていて、戸惑うことがある。正しい知識を教えてほしい」との意見が住民から出されたのでしょう?生態系をトータルに考えてほしいと主張してきたのは、私たち地元の住民(&研究者)で、「アサザを植えれば水質が浄化される」と主張していたのはアサザ基金ではなかったでしょうか?


なぜアサザ基金はこのような反論を繰り返すのでしょう。その理由として私は、アサザ基金にとって今までやってきたことは「事業」として展開したものであり、その成功を印象づける宣伝が必要だからだと推定します。アサザ基金の事業の収益が基金の方々の生計の一部になっているとすれば、科学者に誤りを指摘されてもヤスヤスと認めるわけにはいかないのでしょう。


補足:公共事業でなくNPO法人の事業であっても、一度始まってしまうと修正は難しいようです。だからこそ激甚災害の対策事業等とは異なり、公共事業としてのアサザ保全は「緊急」などと急ぐことなく、事前の環境評価と合意形成を十分に行うべきでした。

ご紹介した新聞記事を例にとりましょう。
ウキクサによる「室内実験」では、浮葉植物の増加は酸欠を招いていました。これに対してウキクサの実験は「霞ヶ浦アサザ」には当たらないという主張は、消波堤ができる前の、アサザが自然に繁茂している群落の実態を踏まえての見解として正しいと思います。
しかし10月6日付記事で紹介したように、消波堤の中でアサザが繁茂すると、酸欠状態になっていました。つまり、ウキクサを容器という囲いにいれて実験したら酸欠になったように、アサザ群落が囲われてしまっているから酸欠になったのです。
今回紹介した新聞記事にあるお二人の見解の相違は、「消波堤を作るという事業が何を招くか」という点について事前に議論を重ねていれば、防止策を検討するきっかけになっていたかもしれません。

本当に残念なことですが、これを教訓にせめて研究者の間では、科学的な議論に基づいて合意形成を目指すことを望みたいと思います。アサザ植栽事業をブログで何度もとりあげているのはそのためです。他の水域で同様のことが起こってほしくないからです。