エピゲノム:化学物質の悪影響が子孫に及ぶ可能性

環境ホルモン学会ニュースレター14巻1号に、東京大学大学院総合文化研究科の太田邦史氏による「環境応答と工ピゲノム」と題する報告があり、その末尾は下記のように締めくくられていました。
「獲得形質や環境の影響は生殖細胞を通じて子孫に伝搬しないと考えられていた。しかし、環境に応じる細胞記憶のしくみである「エピゲノム修飾」が、子孫のゲノムDNAの再編成制御に重要な役割を果たすことを考えると、環境の影響が何らかの形でDNA配列に残される可能性があり、世代を超えた環境影響を考える上で重要な示唆を与えることになる。この場合、生命システムへの環境影響におけるエピゲノムの重要性は、予想以上に大きいと言えるだろう。」
この号の編集後記も、その重要性をこう指摘しています。
「1950年代に日本で水俣病が発生した当時、汚染された魚を直接食べていない胎児にも影響が及ぶと考えた人は少なかったようです。しかし時を経て、胎児期は化学物質に対する脆弱性が高いという考え方が常識となりました。今新たにエピジェネテイクスの視点が加わることによって、化学物質の作用に関する理解が大きく変わろうとしているかもしれません。」
放射線による目に見えない汚染が多くの日本人に認識された今こそ、私たちが日常使っている化学物質もまた同様のリスクがあること、化学物質で健康被害を受けている隣人がいること、そしてそれが遺伝子を通じて子孫にまで災厄をつなげてしまう可能性まででてきていることに、少しでも目が向けられてほしいと思います。