今年の目標

2003年に施行された「自然再生推進法」のキーワードとして、「地域の和」(多様な主体の参画・連携による合意形成)、「科学の目」(科学的知見に基づく実施と順応的な管理)、そして「自然の力」(自然の回復力の長期的な手助け)があります。
これは一般の方が想像する以上に難しいことです。例えば宍道湖では、1950年代半ばに除草剤使用が始まるまでは湖底の浅場に沈水植物が繁茂していて、透明度は4mくらいありました。年間1万トン以上の二枚貝ヤマトシジミを漁獲するのは、植物プランクトン(=濁りの原因になる)が不足し、また貧酸素しにくい浅場が水草帯なので、1950年代以前の宍道湖では不可能だったと考えられます。いつの自然を再生目標にするのか、それは自然の力で維持できるのか。合意形成と、失敗の危険性を可能な限りゼロに近づけるための科学的な検討が不可欠です。
宍道湖では今年、ヤマトシジミ漁獲量1万トンを目指すプロジェクトがスタートします。並行して第六期湖沼計画の検討で、この湖の環境目標はどういう状態かが議論されます。地学のベースに立った陸水学の総合的な知見・考え方から、この問題に取り組もうと思います。
一方、霞ヶ浦では、本来波が高い湖の内側に某団体が防波堤を作らせたために、二枚貝の死滅、泥を好むハスの進入が起こっています。霞ヶ浦が霞ヶ沼になっているのです。この団体は科学的な批判を一切受け入れず(批判されるとネットで非論理的な反論を繰り返す)、子供達に考えさせるのではなく「アサザを植えることが自然再生につながる」と植栽させています。自然の回復力をキーワードとする再生法の理念は、どこに行ったのでしょう?
霞ヶ浦アサザを植栽することが自然再生につながると主張している科学者は、私がいる限りいません(いたら教えて下さい)。その団体はホームページで、自分たちの主張を支持する科学者がいないのは科学の問題だと主張していますが、単に彼らが非科学的なだけです。ところが某団体による再生目標の絵は、それが科学的にはあり得なくても、見た目に綺麗なためか文系の大学の先生でさえ嘘が見抜けないようです。今年は水環境に関わる理工系の学会に働きかけて、霞ヶ浦の某団体による自然破壊がなぜ社会に受け入れられたのか、どうやって是正していくかを検討していきたいと考えています。
昨年は3.11で広範囲の環境が一変しました。「再生」をどう考えるのか、どう進めるのか。そこには科学的な土台(特に100年、1000年を見据えた地学の土台)が不可欠であることは共通していると思います。
昨年の卒業生の修論は1本が受理、2本が投稿中、2本が改稿中です。今年も引き続き、全員の修論が原著論文として学術雑誌に掲載されることを目指します。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
(追伸)
1月2日に、投稿中だった1本が受理されたとの連絡を頂きました。