寶月(1948)手賀沼湖沼植物の生態学的研究概報、植物学雑誌、61、715/716号、17-21

知人から表記文献を紹介してもらいました。除草剤使用で沈水植物が減少する以前、まだモク採り(肥料に使う目的での沈水植物の採取)も行われていた頃と思われます。興味深い記述と私の感想・解釈を記します。

○沈水植物は水深1mに多い
○概して春、夏に澄み、秋、冬に濁る。
○溶存酸素量は14.90〜7.26 mg/l
○KMnO4−消費量にて示される有機物量は27.3〜73.5 cc/lの間を変化し、10-12月に最大値を、5-7月に最小値を示した。プランクトンの消長よりも、大形水生植物の遺体の分解及び風による撹拌が大なる原因となる事によると考えられる
○NH4は4.9 mg/l, リン酸は0.03 mg/l
水草の根の生活する土壌中の酸素量は、ヨシ土壌(約20 cm深)で0.04 mg/l(1942年4月)、又は皆無(1942年5月?)であった
○マツモ、イバラモ、ヒシ等は最も有機物の多い土壌にみられ、これに次いでエビモ、クロモ、センニンモ、コウガイモがみられ、最も乏しい所にはササバモアサザ、セキシヤウモ等が生える
マコモは勿論根が浅いため、ヨシ帯にも充分発達出来るが、ヨシと競争の結果、ヨシの発達し得なくなる様な場所に帯をなすに至ると解せられる

沈水植物は水深1mと、非常に浅いところに生えていたことが分かります。これは浮葉植物(アサザなど)と競合する水深です。
水中の溶存酸素量は非常に高いのですが、CODもかなり高いです。冬季に沈水植物が分解することでCODが高くなっていると解釈されています。一般に冬季はバクテリアによる酸素消費が少なく、一方で風による混合が盛んなので、CODが高い冬季に酸素濃度が下がらないのだと思います。

ここで面白いのは、それほど酸素があるのに、硝酸ではなくアンモニアが検出されていることです。硝酸を測っていなかったからではないのだとしたら、宍道湖のように二枚貝がかなり高密度にいて、アンモニアを排出していた可能性があります。
抽水植物同士のせめぎあいも興味深いです。ヨシとマコモではマコモが競争に負けていると解釈しています。そのヨシ帯の土壌は酸素が全く無くなっていると書かれています。最近、自然再生と称してヨシを植える事業が各地で行われていて、ある地域ではヨシの根の下に二枚貝が生息している図が描かれています。酸素が消費されるヨシの根の下の土壌では、それはあり得ないことが分かります。

アサザ有機物が最も少ない所に生えていたとあります。湖岸では波が穏やかなところやヨシなどの植生帯で有機物が高くなりますので、霞ヶ浦での聞き取りと同様、砂が流入してくる河口近くに限定されていたと考えられます(この方の他の文献で、平面分布を記載していないか調べてみようと思います)。
昨年度、河川管理財団の助成を受けた研究で、霞ヶ浦アサザ植栽事業でアサザが定着できなかった原因は、消波堤による有機物蓄積である可能性が高いことを報告しました。また微細粒子が蓄積しない環境には、アサザが自然に定着していることも示しました。このことは科学的に基本的な知見から推定できることなので、国際誌に投稿できる内容ではありません。霞ヶ浦では水環境に関する基礎的な理解もないNPOによって間違った自然再生運動が展開されていること、そして一部のマスコミの科学リテラシーがそれを見抜けないレベルであることが問題だと思います。