身近な生活から水質浄化を考える

霞ヶ浦ではアサザを植えることで、人口が増えても水質が悪化していないとの科学的にあり得ない記載が、義務教育の副読本に掲載されています。検定した先生方も、そう思ってしまっているということです。アサザやヨシを植えるだけで水質浄化機能があるとの誤解は日本社会に蔓延していて、この誤解が原因で貴重な湖岸環境が植栽によって破壊されている例が増えています。
これまでも担当する講義で実態を解説してきましたが、では水質浄化として住民にできること・すべきことは、本当は何なのか。それを考えてもらおうと、今年の柏や本郷の講義では、パックテストを使って水道水や口腔洗浄剤などの窒素・リン濃度を測ってもらいました。
富栄養化をもたらす窒素・リンのうち、リンは特に生活系から多く排出されます。合成洗剤の無リン化は進みましたが、リンは生活で使う様々なものに含まれています。例えば口腔洗浄剤のリン酸濃度はパックテストの結果で600mg/lとなりました。これを富栄養化の目安である0.02mg/lにするには3万倍に薄めなければなりません。100mlうがいしてはき出したら、それを薄めるのに3000000mlの水、即ち3tの水が必要という計算になります。
茨城県小中学校の総合学習などでは、科学的に根拠のないアサザの植栽ではなく、こういった身近な問題から考える能力を育てる授業をお願いしたいところです。

(追伸)
本郷の講義の後、パックに入れる水の量を厳密に半分にする必要があるのではとの指摘がありました。中学校の頃、その為に苦労した経験があるそうです。本当はそうなのですが、その学生さんが書かれているように半分に合わせるのはとても大変なので、事前にどの程度まで増減があっても結果に大きな影響がないか調べた上で講義に使いました。
その学生さんがパックテストを使った頃はパックに針で穴をあけていたそうですが、今は糸を引いて穴をあけることができるよう改良が進んでいます。ではパックの半分のところに目安の線をいれてはどうかとの提案を頂きました。
今年の本郷の講義は、水環境に関する理工系の基本的知見を全て網羅するのをある程度控えて、特に水質に重点を置いています。そのためか、毎回学生さんから質問が出ます。水質に対する関心の高さを反映しているのだとすれば、科学的な知見が正確に伝われば、関心の高さに比例して対策も進むのではないかと感じています。