「首都圏の水があぶない 利根川の治水・利水・環境は、いま」

メガシティ東京の水資源をどう考えるか、ここ数年検討していて、参考になるかと読んでみました。残念ながら、著者の1人の主張の一部が荒唐無稽で、この方の他の内容の信憑性も疑われました。権威ある岩波書店の本であることから、この記載を正しいと信じてしまう人はかなり多いのではと心配です。

まず一つは21頁。
霞ヶ浦の水質悪化の主たる原因は,栄養塩類(窒素とりン)によって植物プランクトンが異常増殖することにあるから、水質を改善するためには、栄養塩類の濃度を大幅に下げることが必要である。ところが、利根川那珂川から導水される水の栄養塩類濃度は、平均すれば霞ヶ浦のそれとほとんど変わらないから、霞ヶ浦の水質がよくなるはずがなく、実益が何も得られない事業と言って良い」
この方は長良川河口堰問題という、河川法が治水・利水に加えて「環境」を配慮する契機となった大問題をご存知ないのでしょうか。植物プランクトンの異常増殖は滞留日数と密接な関係があり、長良川ではそれまでほとんど発生していなかったアオコが、河口堰で流れを止めることで発生するようになりました。逆に手賀沼では、著者が「水質がよくなるはずがない」と主張している利根川の水を導水することでアオコの発生が抑制され、COD(=有機物濃度)が減りました。アオコで悩み、長年水質ワーストワンだった手賀沼からアオコが消えたのは、導水事業の効果です。単純に窒素やリンの濃度だけで決まることではありません。
霞ヶ浦導水事業に賛成・反対の立場以前に、上記が科学的に誤りであることだけを指摘しています(念のため)。

同様の科学音痴が、64〜65頁でも露呈していました。「霞ヶ浦の再生 -アサザプロジェクトの挑戦」として、粗朶消波堤や常陸川水門の柔軟運用という、アサザ基金の主張を紹介していました。このうち、粗朶消波堤によって霞ヶ浦湖岸の自然が破壊されたことは、「アサザ基金の欺瞞」にある記事をご覧いただければご理解できると思います。
もうひとつの常陸利根川水門の柔軟運用とは、アサザ基金が「逆水門の柔軟運用」としてホームページやパンフレットで宣伝しているものです。水門を柔軟運用することで霞ヶ浦に汽水域を復活させ、かつ表層の淡水を利用するというものです。

仮にアサザ基金が主張している「逆水門の柔軟運用」が可能であれば、諫早湾調整池も水門の柔軟運用で、塩害もなく淡水を利用する方法が検討されるのではないでしょうか。事実は、霞ヶ浦ではアサザ基金が主張するような、表層は淡水、下層は汽水などという状態で制御することは不可能です。分子拡散もありますし、風により一気に混合します。また漁業についても、アサザ基金が汽水にするとしている常陸利根川だけで、同基金が宣伝しているほどの漁獲は得られません(詳細は下記ファイルをご覧ください)。
逆水門の柔軟運用は可能か.pdf 直

この方の名前は「嶋津暉之」と言います。どこかで見た記憶があって検索したら、下記でした。
http://yambasaitama.blog38.fc2.com/blog-entry-1877.html

霞ケ浦の優れたNPO法人アサザ基金』に対して山室真澄という東大教授が誹謗中傷を繰り返しています。非科学的で執拗な攻撃はまことにひどいものです。」と書かれています。嶋津氏に科学を語る素養があるとは、とても思えませんが?