NHK教育テレビの捏造番組

NHKの「環境報告書2005」の8頁にこんな文章があります。
「実は、番組がスタートする直前のパイロット番組(本放送前に行う試験的な放送)で、霞ヶ浦アサザプロジェクトという取り組みを紹介しました。水生植物のアサザを湖に植えて水質を良くしようというものでした。しかし、その2年後の17年2月に「地球だい好き環境新時代」のスペシャル版で、もう一度そこを取材したところ、実際にはアサザを植えても水質はあまり改善されていませんでした。なぜだと思いますか? 湖をきれいにするには、何よりも湖に流れ込む水をきれいにすることが肝心で、アサザの力で水質を浄化するには限界があるからです。」

この文章から少なくとも2005年までは、アサザ基金アサザを植えると水質がよくなると宣伝していたことが分かります。またこのディレクターが、予定していた内容が事実なのか自ら真偽を確かめ、アサザ基金の宣伝と実態の乖離を見抜いたことが分かります。ジャーナリストであればそれが当然と思われるかもしれません。しかし私は同じNHKが都合の悪い事実を無視して、事実に反する番組を作った例を知っています。下記は2010年10月4日に、NHK記者から届いたものです。
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東京大学 山室真澄先生
NHK青少年・教育番組部で教育テレビの番組制作をしております○○と申します。
いつもお世話になっております。
私どもでは現在霞ヶ浦環境保全について取材をすすめようとしております。アサザプロジェクトの活動にも興味を持っております。
先生のブログでアサザが水質を悪化させる、等書かれているのを拝見しました。
アサザプロジェクト」の活動について、先生が問題とされている点について、くわしくお話を伺えないものかと思いましてご連絡さしあげる次第です。
(以下、省略)
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 NHK 制作局 第1制作センター
 青少年・教育番組部 ○○○○

そこで私はアサザ基金の問題点として、アサザは水質浄化すると書いたビラを子供達へ配っていたこと、アセスメントもしないでアサザ植栽事業を進めたことで環境改善に取り組んで来た地元住民から批判されていること、アサザ基金と共同していた研究者も今では彼らを支持していないことなどを説明し、関係者の連絡先もお伝えしました。その記者はアサザ保全の専門家に取材し、専門家の方はアサザ基金が行っている植栽は種の保全の点からはほとんど意味がないことをかなり強調して説明されました。しかるにNHK記者は、きっと取材前に作っていたストーリーだったのでしょう。アサザ基金によって霞ヶ浦の自然が守られているとする教育番組「自然を再生する人の輪」を作ってしまいました。
http://www.nhk.or.jp/doutoku/documentary/shiryou/2011_003_01_shiryou.html

現実にはアサザ植栽事業によって霞ヶ浦の環境は悪化しているのに、です(「アサザ基金の欺瞞」で実例を紹介しています)。そして「人の輪」とは地道に環境をよくするために取り組んできた市民ではなく、騙された子供達です。
私はNHKに対して、取材でアサザ基金によって自然が再生するとした科学者が皆無なのに、なぜあのような番組を作ったのかを質しました。NHKから2011 年11 月16 日に届いた回答は驚くべきものでした。
「ご指摘いただいた番組は、一人一人がつながることで大きな力になるということを子どもたちに伝える趣旨のもと制作しました。」
子供達を嘘でだまし環境破壊の人の輪を作ることが、道徳として教育すべき内容なのでしょうか?ナチスが「ドイツがこんな状態なのはユダヤ人のせいだ」というスローガンで人心をまとめ、ユダヤ人虐殺という大きな力を発揮させたことは、ある意味肯定されるとでも言うのでしょうか?とても納得がいくものではなく、NHKには、現実には「自然を再生する」人の輪にはなっていない点を再度伝えました。回答はいただけませんでした。
昨日たまたま冒頭の「環境報告書2005」を見つけて、既にこの時点で環境を担当する部署では、アサザ基金が宣伝していることと実態は異なることを把握していたことを知りました。しかるに、この国の将来を担う子供達に影響を及ぼすNHK教育テレビが、NHK自らが得ていた情報も知らず、専門家から得られた取材結果も無視して「自然を再生する」との番組を作り、かつ現実を指摘されても削除もしていないのです。公共放送として、こんなデタラメが許されてよいのでしょうか。
私の指摘は独りよがりではありません。霞ヶ浦の環境を再生するには「何よりも湖に流れ込む水をきれいにすることが肝心」であることは、NHK自身が2005年に公表していることです。その為には「アサザを植えれば自然が再生する」などと子供達に嘘を教え込むのではなく、生活から出て行く水について考えてもらうことこそが大切なのです。
今からでも遅くありません。「自然を再生する人の輪」はアーカイブから即、削除してください。