生態系を保全するために欠けてはならない知見

下記PDFは東京都生物教育研究会教育課程委員会が作成したもので、本ブログでの掲載を特別にご許可いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
ESJ63都生研参考資料.pdf 直
この資料は、高校の生物の教科書に盛り込むべき内容を提案したものと理解しています。身近な環境の観察を元に自ら考える姿勢をうながす仕組みが模索されている点、評価したいと思います。
ただし気になったのは、生物多様性保全が重要なキーワードであるにも関わらず、除草剤や殺虫剤などの化学物質や、それらの生物濃縮について全く触れていないことです。
この傾向は日本の生態学全般にあると感じています。例えば平野部の湖沼で沈水植物が衰退した原因として、著名な生態学者は富栄養化や護岸工事など、目に見える事象が原因だと主張しています。しかし平野部の湖沼で消滅時期を調べたところ、富栄養化が顕著になる以前の1950年代後半に一斉に減っており、それは除草剤の使用開始時期と一致するのです。
トキやコウノトリを復活させた地域では必ず無農薬・減農薬に取り組んでいることからも、何が衰退の大きな原因だったかわかります。
では日本では農薬などの化学物質が環境に与える影響が研究されていないかと言えばそんなことは全く無く、例えば所属している水環境学会では、農薬だけでなくその分解物の毒性や、抗生物質など医薬品の廃液が環境に与える影響も数多く発表されています。そういった研究はLC/MS/MSなど、生態学を専門にしている日本の研究者のほとんどが使ったことがないであろう分析機器を使用して、環境中の濃度を測ります。
私が専門とする地学は生態学同様フィールド科学ですが、大きな違いがあります。地学はもともと、地表にはない活断層とか、過去に起こった津波とか、古環境の復元など、目に見えないものを見える化するためにあらゆる手法を積極的に取り入れる学問です。ですので化学分析に対する敷居は比較的低いです。しかし日本の生態学は個体数とか成長量とか、目に見えるものを対象にする研究が現状ではほとんどで、化学分析を取り入れた研究を行っている方は少数派です。このような背景から、日本の生態学で化学物質による生態系撹乱がほぼ無視されているのではないかと思われます。
例えば資料の1ページ目に「スーパーで売られている果物はどれだけある?それらはどのような生態系があるから作り出せるのか。」という項目があります。この文章は「スーパーで売られている果物はどれだけある?それらはどのように生態系を破壊するから作り出せるのか。」に変更してはどうでしょうか。例えば花壇などでイチゴを作らせ、殺虫剤などを全くまかなかったらどうなるか観察させます。ナメクジや蟻に食われて、とても商品として出せるものにはなりません。イチゴを商品として出荷するためには、少なくともイチゴを食べてしまう動物がいない、極めて人工的な環境を整えていることが理解できると思います。

(追伸)
山室一族は三重県多度にルーツがあり、多度神社の上げ馬神事は私にとって、人と家畜との関係の原点でした。田んぼがレンゲでピンクに染まる中、子供達は竹の先に赤白青の紙を丸めて切り込んだ飾りをつけて、その竹でこれから神事に挑む馬の尻をたたいて、怖がるんじゃ無いよ、無事に坂を上がれよと励ましてました。
村の若者(男)であれば、あの坂に馬とともに挑戦することほどの名誉はありません(従姉妹は「私は女だから挑戦できないのが悔しい」と言ってました)。たぶん東大合格、なんてこととはレベルの違う重みがあることだったと思います。
その上げ馬神事で本日、坂を駆け上がった馬が突然興奮して、暴れだしたとのニュースを目にしました。
http://breaking-news.jp/2016/05/04/024133

子供の頃の記憶では、駆け上がった後に暴れ出すような状況ではなかったのにと、40年近く行くことの無かった祖先の地の現状が心配になりました。