湖沼における大型植物の異常繁茂に関する国内外の状況

本日、陸水学会岡山大会で表記の発表を行いました。
要旨は下記です。末尾に発表スライドを添付しました。

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日本ではかつて、浮葉植物のアサザを植えることで湖沼の水質が浄化されると、著名な生態学者とNPO法人代表が著書で論じていた1)。さすがに浮葉植物が水質浄化するとの説は下火になったが、沈水植物が繁茂することでアオコを抑制できると信じている研究者はまだかなりいる。このため沈水植物の徹底的な刈り取りは行われておらず、たとえば琵琶湖南湖では在来沈水植物の繁茂によって漁業が壊滅状態に陥るなどの弊害が生じている。
ここではまず「浅い湖沼では沈水植物が優占する透明な状態か、植物プランクトンが優占する濁った状態のどちらかで安定する」というalternative stable state theoryがNatureで発表された翌年からヨーロッパでは現実に反していると指摘され、2007年には著者自身が自説を撤回していることを紹介する。またその著者が新たなalternative stable stateとして、「浅い湖沼はサイズが大きいと沈水植物が少なく多くの種類の魚が住む状態で安定し、サイズが小さいと沈水植物が生えて魚の種類が少ない状態で安定する。」との珍説を提案していたことも紹介する。
次に、海外では1980年代からリンが原因と分かっているものの未だに解決法が見いだされていない大型緑藻の異常繁茂の状況を紹介し、沈水植物を根こそぎに近い形で除去しないと日本の湖沼の沿岸帯も五大湖のように底生緑藻により生態系が破壊される可能性を指摘する。

1) 鷲谷いづみ・飯島博「よみがえれアサザ咲く水辺−霞ヶ浦からの挑戦」文一総合出版,229pp.
陸水学会2018.pdf 直