身近な二枚貝の代表であるシジミですが、総合的に解説した和書はこの本くらいのようです。新聞の連載として執筆された文章をもとにしているので、一般の方にも分かりやすく解説されています。生活史、生理生態、水産資源、食材など様々な観点から記載されています。
ただし明らかな間違いがいくつかあります。
軽微なものは
「汽水湖は湖として歴史が非常に浅い。汽水湖の形成は沖積平野の形成と関係が深い。」(13ページ)
河口にありながら今日に至るまで埋まらないのは、何らかの原因があるはずです。典型的な例が水月後湖で、7万年も存続しています
「ヤマトシジミのサイズは、通常は大きくても40mm前後。」(69ページ)
北海道の生花苗(オイカマナイ)沼では1年に1日だけシジミ漁をして、5cmを越えるシジミが出荷されます。学術論文に記されたヤマトシジミの国内最大サイズは私が知る限りでは57mmで、やはり生花苗沼産です(園田ほか:陸水学雑誌64:11-20 (2003))。
見過ごせない問題は、シジミ漁場の環境改善として「覆砂」を説いている点です。シジミの減少原因として泥質化をあげ、だから砂をかければよいとしています。かけてしばらくは効果があるかもしれませんが、もともと砂地だったところが泥質化したわけですから、覆砂してもまた泥質化してしまいます。本書に掲載されたデータは覆砂から3年後までしかありません。
また、斐伊川にたまった土砂などの淡水域の砂を覆砂に使うことが、宍道湖で様々な淡水性水草が侵入している原因になった可能性もあります。さらには、斐伊川の砂は宍道湖で波に洗われていた砂より栄養塩の含有量が高い可能性があり、これはシオクサの増殖にもつながります。
本来は泥質化の原因を突き止め、それを防止する施策を行うべきでした。しかし本書の著者らによる1993年の覆砂実験の結果が良好であったとして、2004年から宍道湖で覆砂事業が進むことになり、現在に至っています。
浅場造成区や覆砂区が水草やシオクサに覆われてもなお事業が継続しているのが私には謎だったのですが、この本を読んで理解できました。国交省先導の事業ではなく、地元がそう要請していたのですね。ならば今の宍道湖になってしまったのは、自業自得と言えるかもしれません。