定年が65歳のままなら、あと6年で東大退官です。最後の1年は居室の本や実験室の片づけに追われるでしょうから、実質はあと5年です。
それまでの研究テーマとして最も重点を置きたいのが、持続可能な農業の創出です。農薬や化学肥料に頼る今の農業が水界生態系に与えている影響は、護岸工事などの土木事業よりはるかに深刻です。AIやドローンなどのハイテクを使い、かつ経済的にペイするよう、化学や生物に偏らず広い分野から若手に関わってもらって、私が定年になったあとにようやく完成するくらいの壮大な構想で進めたいと思います。
あと4年分の予算を確保しているのが、Littoral Greening。富栄養化していない山岳湖沼の湖底でも緑藻が異常繁茂していると、昨年度から北米の研究者を中心にワークショップやメール会議が行われています。予算を確保したのは北米の五大湖の調査経費で貧栄養湖ではないのですが、でてくる緑藻は同じなので「Masumiもつきあいなさい」と言われて、今でも議論に加わっています。10月のワークショップで議論した内容が、もう投稿論文になってるスピード感が好きです。
マイクロカプセルが水圏生態系に与える影響の評価は、修士1年の学生さんに取り組んでもらっています。GC/MSで分析できるものをとりあえず選んだのですが、学生さんが研究生の間に開発した分析メソッドで、世界初の結果が続々でてきてます。彼には「研究でやっていくなら、日本にいてもつまらないよ。博士は欧米に行けば?」と研究生の頃から勧めていて、日常会話は全て英語です。もし彼がこのままウチで進学したいと言ったら、あと4年でどこまで手を広げるかが考えどころです。
来年度後半から研究生で来たいと連絡してきている中国の学生さんは、これから卒論で海洋のマイクロプラスチックを研究するそうです。「FTIRを使いこなせるようになってたら、受け入れてもいいよ。その場合、修論のフィールドはバイカル湖ね。」と伝えています。海のように広いバイカル湖ですが、湖沼という閉鎖系なので、マイクロプラスチックの濃度は外洋よりははるかに高いです。それがどのような影響を生態系に与えるのか、バイカル湖ではまだ誰も調べていません。おととし、水中のマイクロプラスチックのサンプリングをしたのですが、すごく大変なのと天候に左右されてしまうので、ちょっと工夫して、日本にいても(かつ予算が当たらなくても)影響を調べられる仕組みを整えました。あとは実行あるのみ。このテーマは2年で一通りの解明はできると思っていて、学生さんにも「博士までの面倒は見ないよ。」と言ってあります。
いまのところ残る6年でつきあう学生はこの2名と思っていますが、東南アジアからの留学生1名が、もしかしたら増えるかもしれません。テーマは来ることが分かったら考えようと思っています。3名ですめば自分で手を動かして研究する時間も十分とれるので、ストレス無く6年を過ごせそうです。