2008ASLO課題講演・一般講演から、New to meな知見(2)

昨日に引き続き、12日に聞いた課題講演・一般講演から、面白く感じた発表をメモ書きで紹介します。特にこの日と13日はAuatic invasive species: Understanding invaders to prevent new introductionsのセッションがあります。この大会に参加する気になったのはこのセッションがあったからなので、外来種問題の話題が多くなります。
外来種に関心を持ったのは、2000年にJMS誌に中海におけるホトトギスガイの個体群動態を発表して以来、世界各地のホトトギスに関する査読が定期的に舞い込んで来るからでした。このホトトギスガイ、中海では昔から問題になっているのではなく、アマモが消滅してから問題が顕在化しています。この現象と、進入先での弊害とがかぶってみえて、今回の発表内容を思いつきました(13日発表です)。そしてこの問題を通じて、1950年代半ば以降、除草剤の散布をきっかけに大きく改変した(と私は思っている)日本の水環境は、多くの観点から移入種の繁殖を引き起こしやすいのではないかと考えるようになりました。それで外来種問題を水環境問題のひとつとして、かなり重視しているわけです。

Maltais-Landry, G. et al.
NITROGEN TRANSFORMATIONS AND RETENTION IN CONSTRUCTED WETLANDS
窒素収支を測定し、どのような機能によってどれくらい窒素が除去されているかを大まかに見積もることで人工湿地の水質浄化への貢献を解明するという内容。メカニズムなどは全くなく、ASLOでこういう内容は初めて聞いた。修士論文の内容とのこと。今回はカナダでの開催だったので、この発表も含め、カナダ人学生の発表が多かった。

McMeans et al.
ESTABLISHING TROPHIC LINKS IN A MARINE ECOSYSTEM THROUGH INTEGRATION OF ESTABLISHED AND NOVEL TRACERS
サメとエイの同位体比は、炭素が餌生物範囲の平均と同じ値、窒素もほぼ同じ値になった。しかし水銀濃度では、サメの方がエイより高かった。Atwell et al. 1998で示された 水銀濃度=0.24 X 窒素同位体比-3.14 の関係がここでも当てはまるとすれば、エイはもともと窒素同位体比が高めの二次生産者を餌にしていて、窒素同位体比が同じでも、TLとしてはサメの方が高いと考えられる。

MacIsaac, H. J. (Crooks, J.A.が欠席。ピンチヒッターとして、昨年のD論生の仕事として下記を紹介)
外来種問題が注目されるようになって、invasion conceptを説いたElton, C (1958)の引用がうなぎのぼりに増加している。論文数の増加率で比較すると、外来種問題は地球温暖化と同程度に増加しており、学術的に非常に関心が高い問題と言える。
1990年以降に論文数が特に増加しているのは、五大湖でゼブラマスルが発見されたことと無関係ではないだろう。論文数で見ると、外来種で最も多いのがcommon carp, goat, rainbow troutで、いずれも10000論文を超えている。生物群でみると、植物<無脊椎動物<魚の順になる。外来種が移入先で生息地を拡大するかどうか(A framework to predict invasion success)は下記のフィルターを通過できるかどうかで判断できる。
Pool of native population(生息地における十分な個体群)  transport filter(例えばバラスト水という特殊な環境で生残できるか)  physiological filter(移入先の物理環境)  biotic filter(移入先での競争相手や捕食者の有無など)  founding population(移入先での個体群確立)

Engelen, A.
WHICH DEMOGRAPHIC TRAITS DETERMINE INVASIVENESS IN MARINE ALGAE?
Sargassum muticumは日本からカキ養殖を通じてヨーロッパに移入され、問題になっている。本種が外来種の繁殖の原因とされている特性を備えているかどうかを議論する(結論は、私と同じで、「実はそうではない」なんだけど、ホトトギスガイと同じくカキ養殖で広がったというのはビックリ。他にもカキ養殖を通じて世界に広がったMade in Japanの外来種がありそう)。

Karatayev, A.Y. et al.
AQUATIC INVADERS ARE NOT A RANDOM SELECTION OF SPECIES
有機汚濁が進むと、在来種の多くが生息できなくなる。一方、外来種として定着している種の大部分は、中程度の有機汚濁までは生息できる。従って、有機汚濁の進行は外来種に有利だが、それを緩和することも外来種に有利に働くことがある。
有機汚濁が進むと懸濁物が増えることから、懸濁物食の外来種に有利な環境となる。

Nandi, M.,(指導教官は Bostan, V., Laursen, A)
CIPROFLOXACIN EFFECTS ON NITROGEN CYCLING IN AQUATIC SEDIMENTS
Ciprofloxacin (fluoroquinolone antibiotic)がnitrogen cyclingに関わる細菌の代謝に影響を与えているかどうかを検討した. 湖沼堆積物をいれた湖水に0 to 2.5 mg/kgの範囲で添加し15NO3- dilutionで窒素代謝に与える影響を調べたところ、ammonificationには影響が認められなかったが、nitrificationとdenitrificationには、投与量に比例した影響が認められた。
抗生物質なんだから、窒素代謝に関わる細菌に影響がでても不思議ではないけど、環境中であり得る濃度で出たとなると、結構、深刻かも。「修士研究でこんな面白い課題に出会ってラッキーです」って、状況を理解している子でよかったかな。会社勤めしながら研究している、たくましいインド系女子学生さんでした。