自然再生事業で科学的知見がどのように活かされているのか?

自然を再生しようとして逆に破壊してしまったら、熱意があっただけに失意も大きいでしょう。
小説「レ・ミゼラブル」で、悪人と信じてジャン・バルジャンを追っていたジャベル警視が、正義と信じて行っていたことが過ちと気づいた時、失意のあまり自殺したように。
最近気になるのは、私のフィールドのひとつである中海(島根県鳥取県)で、コアマモ再生が自然再生と誤解されているらしいことです。
現時点で、「中海 コアマモ再生」でGoogle検索すると705件ヒットし、コアマモ再生事業が進められていることが分かります。
アマモは1950年代まで広範囲に生えていました。そこに水産有用種が住んでいたことも文献に記載されています。しかしコアマモ場が中海で「海のゆりかご」として機能していたという記載は、少なくとも私が知っている限りありません。コアマモはむしろ、中海で増やそうとしているアサリを減らしてしまう可能性がおおいにあります。コアマモは「世界の侵略的外来種」のサイトで「環境を物理的に改変し、在来の動物の種数や生息密度も変えてしまう」と明記されています。
http://www.issg.org/database/species/search.asp?sts=sss&st=sss&fr=1&sn=Zostera+japonica&rn=&hci=-1&ei=-1&lang=EN&Image1.x=40&Image1.y=9
島根県水産試験場事業報告 (1923) : 中海調査」によれば、当時も浅場にアサリが生息していたことが明記されていますが、コアマモにおおわれていたとは書かれていません。
熱意が失意にならないためには、自然再生事業に科学的知見が活かされる必要があると思います。
幸いなことに、8月6日に松江で、日本生態学会主催の「自然再生講習会」が開かれます。
http://nakaumi-saisei.sakura.ne.jp/3/2011.08.06.pdf
開催趣旨には、「各地の湖沼や湿地で行なわれている自然再生事業で科学的知見がどのように活かされているのかを、今回、霞ヶ浦、八幡湿原、深泥池などでの事例を紹介し、意見交換することとしました。」とあります。
中海で進められているコアマモ再生事業について、科学的に議論していただければと思います。

追伸
アマモとコアマモは、そのサイズから株間から生息深度から全く違っていて、何より「藻場」と言われるほどの群落になったときに形成する環境が全く違うのですが、実際にこれらの群集を潜って見ない限り、様々な論文記載を総合して考える訓練がない方には、理解しづらいかもしれません。私の学生でしたら、「とにかく現場を見てきなさい」と指導できるのですが。