島根県と鳥取県に位置する中海では、干拓目的で本庄工区と呼ばれる水域が堤防で囲まれていました。この堤防を開削すれば堤防で囲まれた部分だけでなく、中海の残りの部分の貧酸素化も緩和されるという「分かりやすい」主張を、一部の科学者が唱えていました。私たちは水理の基本から開削は本庄工区の貧酸素化をかえって強化すると主張していましたが、開削派は自説を支持するシミュレーション結果を公表し、結局開削されてしまいました。
そこで私たちは、開削によって本庄工区の貧酸素化が強化したことをデータで示し、また中海本湖の貧酸素化は工事以前から生じていたことを既報により確認して報告しました。大型公共工事以前の状態に戻すことは必ずしも自然環境の再生につながらず、科学的な根拠に基づかない「分かりやすい主張」には慎重に対処すべきです。ましてや科学者たるものが、科学的根拠に基づかない主張をして、間違った方向に煽動してはならないと思います。
本研究は「応用生態工学 15(2), 221-231, 2012」で公表されました。
http://www.ecesj.com/J/journal/ece/contents/v15n2/08Y.html
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