ハーバード式病気にならない生活術

巷に広まっている健康情報を、疫学の観点から解説した本です。「コーヒー・紅茶・緑茶、健康にいいのはどれ?」「脳トレや運動で認知症が防げるか?」など、身近なトピックを14取り上げています。
小児科医である著者の信念は「予防は治療に勝る」です。その為には、各自が正しい情報に基づいて病気を予防する必要があります。
しかし、「○○が健康によい」といった情報には、科学的根拠(エビデンス)のないものが相当数含まれています。一見いかにも健康によさそうに耳に響く健康情報のうちにも、実際にはエビデンスに基づかないニセの情報がたくさんあるのです。」(22ページ)という状況から、本書を出したそうです。
美容とか健康だけでなく、自然再生とか水質浄化など水環境分野でも、「一見いかにも環境によさそうなニセの情報」がたくさんあります。例えばアサザを植えれば霞ヶ浦の自然が再生する、とか。中学校の理科の教科書にまで、「アサザやヨシは水質を浄化する」と、全くエビデンスの無い内容が記載されています。教科書を執筆したのは科学者でしょうから、科学者であってもエビデンスの無いことを信じてしまうようです。
関連して本書では、陸軍軍医総監・森鴎外決定論的考え方と、海軍軍医総監・高木兼寛の疫学的考え方を紹介しています。当時、海軍では、メカニズムは分からないけれど脚気の原因は栄養が関わっているとして、エビデンスに基づいて対策を立てました。一方、陸軍では鴎外を中心に、脚気脚気菌によって発生するとしていました。
「陸軍の鴎外は『病気の原因を解明するのが先決で、病人は二の次』と考え、海軍の兼寛は『白米から麦飯に替えると脚気が発生しにくいというエビデンスがあれば病気を予防・治療できる。病気を予防することが先で、病気のメカニズムを明らかにすることは二の次』と考えたわけです。目の前のデータ(事実)を何より優先させるという兼寛の姿勢は、確率論的であり、疫学的ということができるでしょう。一方、鴎外のそれは決定論的です。」(19〜20ページ)
科学者としての私のスタンスは、メカニズム解明はもちろん目指しますが、まず重視するのがエビデンスです。例えば中海本庄工区の堤防を開削すれば中海の貧酸素が解消するとか、水質がよくなるという、全くエビデンスに基づかない主張には反対していました。それでも堤防は開削されてしまい、私達が予測したように、それまで貧酸素化しにくかったところも定常的に貧酸素化するようになりました。なのに今でも一部の住民は、堤防を全部無くせば中海の水質はよくなるとか、貧酸素化しにくくなるという幻想を抱いているそうです。怪しい健康情報を信じるようなものでしょう。地元の科学者には、エビデンスに基づいた情報を伝える努力をお願いしたいところです。

ハーバード式病気にならない生活術 (「疫学」の力でやせる、健康になる)

ハーバード式病気にならない生活術 (「疫学」の力でやせる、健康になる)